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青い光

「酒井」

その名が、

まだ洞窟の中に残響している。


センは視線の置き場を失っていた。

呼吸は静かになっていく。

だが、

心臓だけが速くなる。


ケイリン

「酒井隼人が、

なぜあなたを養子にしたのか。

知っている?」


セン

「お、俺は……」


言葉が出ない。

考えようとしても、

頭がうまく働かない。


ケイリン

「酒井隼人は、

君についてどこまで知っているの?」


洞窟を走る光の筋が、

さらに強く輝き始める。

深く。

激しく。


セン

「知らない……

と思います。」


ケイリン

「酒井家の正体を、

今日まで知らなかった?」


低い唸りが岩の奥から響く。

まるで、

山そのものが反応しているかのように。


セン

「知らなかった……

俺は……」


ケイリン

「それまでに、

トラマの首飾りを見たことは?」


セン

「わからない……」


ケイリン

「考えなさい、酒井。」


セン

「……やめろよ。その呼び方。」


その瞬間――

地面が揺れる。

岩の破片が崩れ落ちる。

ケイリンの表情が変わる。

目を見開く。


ケイリン

「ここを出るわよ。

早く!」


だが、

遅かった。

センの身体に刻まれた紋様が、

一つずつ光を放ち始める。


洞窟全体が震える。

激しく。

不安定に。

空気が重くなる。

まるで、

何かが内側から目覚めようとしているかのように。


***


シェイドの身体に絡みつくケーブルが、

ゆっくりと締め上げていく。

最初はわずかに。


だが、

徐々に強く。

さらに強く。


呼吸が詰まる。

肺が軋む。


冷煌

「ようやくだ。

間。

世界に見せる時が来た。

お前の本当の顔をな。」


冷煌は手を伸ばす。

シェイドの仮面へ。


その瞬間――

青い光が漏れ出した。

シェイドの身体の内側から。


冷煌の眉がわずかに動く。

幻ではない。

確かな光。

光はさらに強くなる。

脈打つように。

激しく。


シェイドの背筋を、

凄まじい震えが駆け上がる。

身体が強張る。

指先が痙攣する。

そして――

呼吸が変わる。


***


洞窟を走る光脈が、

センの周囲で激しく脈動する。


呼吸は乱れ、

両手は震えていた。


ケイリン

「セン!

均衡を保ちなさい!」


だが、

もう届いていない。

センの視線は虚空へ向けられたまま。

何かが、

その身を貫いている。

何かが、

その存在を飲み込もうとしている。


センは微動だにしない。

そして――

不意に、

その瞳が裏返る。

白く染まる。

完全に。


***


シェイドが、

ゆっくりと顔を上げる。

まるで、

何かに憑かれたかのように。


青い光が、

血管の奥で脈打っていた。


冷煌は黙って見つめる。

その目が変わる。

初めてだった。

そこにあったのは、

余裕でも嘲笑でもない。

警戒。

冷煌は一歩下がる。


その時――

何かが軋む。

内側から、

無理やり押し広げようとするような力。

シェイドを拘束していたケーブルが悲鳴を上げる。

一本。

亀裂が走る。

二本目。

そして――

轟音。


すべてのケーブルが弾け飛ぶ。

暴力的な力によって引き裂かれたかのように、

四方へ吹き飛ばされる。

シェイドは片膝をつく。

荒い呼吸。

刀を握る手に力がこもる。

青い光は、

なお脈打っていた。


冷煌は動かない。

だが、

その視線は変わっていた。

遊びは終わった。

そこにあるのは警戒だけだった。


シェイドが立ち上がる。

身体に絡みついていた最後のケーブルが、

音もなく滑り落ちる。

静寂。

二人は向かい合う。


冷煌が先に動いた。

今度は消えない。

真っ直ぐに突っ込む。

駆けながら、

その手に巨大な斧が現れる。

重く。

密度を宿した一撃。

躊躇なく振り下ろす。

シェイドは刀を構える。


激突。

衝撃が走る。

足元の床が砕ける。

だが――

今回は違う。

シェイドは微動だにしない。


冷煌の身体がわずかに後ろへ押される。

一歩。

その隙を逃さない。

シェイドが踏み込む。

一閃。

二閃。

三閃。


振るうたびに、

刃は重さを増していく。

冷煌は受ける。

だが、

腕が押し返される。


シェイドの手袋の隙間から、

紋様が浮かび上がる。

一瞬だけ。

不安定に明滅しながら。


冷煌が反撃する。

斧が現れる。

そのまま振り下ろされる。

だが、

シェイドは受けない。

避けない。

前へ出る。

斧の軌道が、

シェイドの目前で歪む。


あと数センチ。

それ以上、

近づけない。

まるで空間そのものが、

シェイドに触れることを拒んでいるかのように。


冷煌の目が見開かれる。

理解できない。

どうやった――

その思考よりも速く、

シェイドはもう懐に入っていた。

一撃。

冷煌が受ける。

だが衝撃で大きく後退する。


シェイドは止まらない。

さらに踏み込む。

刀が消える。

そう錯覚するほどの速度。

振るわれるたびに、

空気そのものが歪む。

衝突音が響く。

まるで爆発を押し潰したような重い音が。


***


地鳴りが響く。

山全体が震える。

岩肌に亀裂が走る。


ケイリン

(強く)

「酒井!!」


だが、

止まらない。

センは、

もはや誰にも止められない災害そのものだった。


その時――

涼司と信夫が洞窟へ駆け込んでくる。

そして、

目の前の光景に息を呑む。

言葉を失う。

ただ、

立ち尽くすことしかできなかった。

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