圧倒
攻防は、
もはや人のものではなかった。
冷煌の斬撃は、
人間の間合いを超えて襲いかかる。
あらゆる方向から。
幻は、
刃が届く瞬間だけ実体を得る。
振り下ろされる斧は、
床を砕き、
鉄骨を引き裂くほどの威力を持っていた。
シェイドは受ける。
弾く。
流す。
退き、
また踏み込む。
その刀は、
一度も揺るがない。
もう、
本物と幻を見分けようとはしなかった。
すべて斬る。
一振りの斧が足元へ落ちる。
床が砕ける。
もう一振りが肩をかすめ、
外套を裂く。
三撃目――
刀の峰で受け止める。
衝撃を殺し、
そのまま前へ滑り込む。
一閃。
二つの幻が同時に断ち切られる。
その姿は霧のように消えた。
だが――
遅い。
本物の冷煌は、
もう目の前にいた。
重い一撃。
シェイドの身体が吹き飛ぶ。
背中から床へ叩きつけられる。
肺から空気が吐き出される。
冷煌は止まらない。
ゆっくりと歩み寄る。
冷煌
「見ていて飽きないな。」
間。
冷煌
「だが……
父には昔から言われていた。
「食べ物で遊ぶな、と。」」
冷煌の頭上に、
巨大な斧が現れる。
これまでとは比べものにならない。
異様な大きさ。
振り下ろされる。
シェイドは間一髪で転がる。
轟音。
床が引き裂かれ、
破片が四方へ飛び散る。
着地と同時に立ち上がる。
そのまま踏み込む。
反撃。
距離が消える。
刀と斧が激しくぶつかり合う。
一撃。
また一撃。
衝突音がスタジオ全体へ響き渡る。
構造物そのものが震える。
冷煌の斧は、
すべてを叩き潰すための力。
シェイドの刀は、
最短距離で急所を狙う刃。
斧が振り下ろされる。
受ける。
腕が軋む。
それでも折れない。
力を流す。
踏み込む。
一閃。
今度は届いた。
冷煌の肩を、
鋭い刃が切り裂く。
血が飛ぶ。
本物の血。
冷煌の動きが止まる。
傷口を見る。
そして、
ゆっくりとシェイドへ視線を戻す。
笑う。
さっきよりも深く。
危険な笑み。
冷煌
「やっとだ。」
その瞬間。
無数のケーブルが震え始める。
影が歪む。
スタジオそのものが姿を変えていく。
元には戻らない。
さらに異様な姿へ。
床は砕け、
浮かび上がり、
無数の破片となって宙を漂う。
ケーブルは空中へ伸び、
絡み合い、
まるで巨大な神経網のように空間を支えていた。
重力さえ曖昧になる。
冷煌はほとんど動かない。
それでも、
どこにでも現れる。
上空。
一撃。
消える。
あり得ない角度から、
再び現れる。
斧が飛ぶ。
一つ。
二つ。
三つ。
どれも本物。
どれも致命的。
シェイドは最初の一撃を弾く。
二撃目が肩を裂く。
三撃目が、
宙に浮かぶコンクリート片へ叩きつける。
激突。
身体が悲鳴を上げる。
それでも、
シェイドは立ち上がる。
だが、
遅い。
冷煌はもう目の前にいた。
一撃。
さらに一撃。
また一撃。
衝撃は、
一撃ごとに重くなる。
刀が軋む。
足元が崩れる。
呼吸が乱れる。
紫色のガスは、
なお漂っていた。
だが、
押し返される。
空間そのものが、
その存在を拒んでいるかのように。
冷煌は目の前に立つ。
微動だにしない。
触れることさえできない。
冷煌
「まだ立つか。」
間。
冷煌
「見事だ。」
その手に、
ゆっくりと一振りの斧が形を成す。
より重く。
より確かな質量を宿して。
冷煌
「だが……
綾柳に敵う者などいない。」
その瞬間。
無数のケーブルが、
生き物のようにシェイドの身体へ絡みつく。
最後の一撃が、
迫る。




