旧き名
冷煌は薄く笑みを浮かべたまま、
シェイドと向き合う。
次の瞬間――
その姿が消える。
背後で風が鳴る。
シェイドが振り向く。
――遅い。
鈍い一撃。
シェイドの身体が吹き飛ぶ。
床を滑る。
だが、
すぐに体勢を立て直す。
乱れはない。
視線だけが鋭く動く。
分析している。
冷煌はもう別の場所にいた。
座っている。
立っている。
また消える。
位置が次々と変わる。
視線で捉えられない。
シェイドは刀を抜く。
赤い非常灯が刀身に映る。
一閃。
迷いのない斬撃。
冷煌を斬る。
だが、
その身体は霧のように掻き消えた。
幻。
その瞬間――
背後から一撃。
今度はさらに重い。
シェイドは受け止める。
数歩後退し、
片膝をつく。
かすかな噴射音。
紫色のガスが、
霧のようにゆっくりと二人を包み始める。
冷煌
「なるほど……」
声だけが響く。
一方向ではない。
四方から聞こえてくる。
冷煌
「綾柳の技を、ずいぶん気に入っているようだな。」
シェイドは答えない。
冷煌
「その程度の幻で……
私を上回れると思ったか?」
スタジオの景色が、
静かに歪み始める。
影が伸びる。
距離が揺らぐ。
シェイド
「……よく喋る。」
その時――
空気を切り裂く音。
巨大な斧が、
凄まじい勢いで飛来する。
シェイドは先読みする。
身体をひねり、
刀で受け流す。
――キィン!!
激しい金属音。
斧は軌道を逸らされ、
壁へ突き刺さる。
轟音。
刃がなお激しく震えていた。
その瞬間、
冷煌が姿を現す。
動くたび、
その身体は残像を引く。
不完全な分身。
一人。
二人。
三人。
さらに増えていく。
全員が武器を構える。
その手には、
揺らめく光から形作られた斧。
刃が空気さえ歪ませる。
一斉に襲いかかる。
シェイドは待たない。
身体を回転させ、
刀が大きな弧を描く。
最初の一撃を弾く。
激しい衝突音。
二撃目が、
間髪入れず低く迫る。
シェイドは一歩退く。
斧が胸元をかすめる。
そのまま横薙ぎに斬り払う。
一体が砕け散る。
だが、
次の一体は、
もう目の前まで迫っていた。
戦いは、さらに加速していく。
***
ケイリン
「何年も前……トラマの守護者たちは、
綾柳一族に平和をもたらそうとした。」
セン
「ミナから聞いたことがあります……
幻術を使う一族。」
ケイリン
「彼らは拒んだ。」
間。
ケイリン
「数年後……
新たな当主が、
トラマの守護者たちに全面戦争を宣言した。」
その声が冷たくなる。
ケイリン
「行く先々で、
すべてを滅ぼしていった。」
セン
「……崩壊。」
ケイリンは静かに頷く。
ケイリン
「崩壊が起こる前……
古の一族は皆、
その名を捨てた。」
間。
ケイリン
「姿を消すため。
生き延びるため。」
間。
ケイリン
「継神は……
原になった。」
セン
「…綾柳は……?」
短い沈黙。
ケイリンはセンを見つめる。
ケイリン
「酒井。」




