第98話 鬼ごっこ
ニンジャ迷人たちの歓迎会で始まった地下6階層の探索だったが、その後は巨大タランチュラやら、「破戒僧」と「盗賊」の迷人集団やら、これまでに闘ったことのある魔物が続いて少し物足りない。
宝箱から出てくる宝石類はおそらく高価な物ばかりであろう。
俺に目利きは利かないのだが、前回地上に持ち帰った時にはやはり過去最高額の換金となっていた。
…実は地下6階層から得られる魔石については現在保留になっている。
なんでも、王都の漂人局本部とやらに連絡をとって、鑑定のできる人物の派遣を依頼中らしい。
王都というのがどのくらい離れたところにあるかはよく知らないが、ともかく当面は魔石による稼ぎがストップしてしまうということだ。
まあ、そんなに換金を急ぎたい事情も無いので構わない。
最悪でも魔石の現物を残しておけば、俺に万が一の事態があってもしばらくは生活に困らない財産となるだろう。
重ねて言うが、そんなつもりは全く無いし、あくまでも万が一の話である。
…む?
などと余計なことを考えていると、ここで強力な魔物の気配を捉える。
通路の角から覗き見るとと、3体の大鬼と5体の肥満体の怪物が目に入った。
…ふむ、どちらも未知の魔物という訳ではないが、あの大鬼は以前に多少苦戦した相手である。
今回も煙玉は揃えてきてはいるが…、しかし以前の対戦からコイツの硬皮を切り裂くイメージを十分に積んできた。
ここは鍛錬の成果を試させてもらおうか…。
俺は背中の太刀を引き抜くと、一息のうちに限界まで魔力を込める。
肥満体の怪物はタフではあるが動きも鈍くて物の数ではない、…ここは如何にして素早く大鬼を仕留めることが出来るかだな。
俺は迷宮の暗がりに潜みながら魔物の集団に接近する。
…前回は初太刀で脚を狙いに行ったが、今回はもっと端的に獲るイメージを固めて来たぞ。
俺は大鬼どもの死角が僅かでも重なる周期を見極めて…、一気に駆け出すと迷宮の石壁に向けて跳躍した。
人の域を超えた跳躍力は俺の身体を2m以上の高さまで運び、迷宮の石壁に接地した俺は膝のバネを解放してさらに跳躍する。
猛烈な勢いで弾むゴム鞠のようになった俺は、異変に気付いて巨大な剣を掲げようとした大鬼の首元を高速ですり抜け、一刀でその首を刎ね飛ばした。
上手くいったぞ。
石畳から直接跳び上がったのでは横方向のベクトルが足りず、空中で振り回す太刀にも威力が伴わないからな。
ならば、石壁から真横に跳ぶことで縦を横にしてしまおうという発想である。
「ゴゥルアアァ!」
いきなり同胞の首が宙に舞った大鬼は怒りの咆哮を上げて剣を繰り出してくるが、それには付き合うつもりはない。
俺は稲妻のように迷宮を奔って逆側の石壁を駆け登ると、再び跳び戻って次の首級を斬り転がした。
最後の1体は壁際にいると俺に首を狩られると気付いたらしく、慌てて後退って通路の中央に陣取る。
…だがまあ、どうやら位置取りに気を取られ過ぎて、俺への注意を欠いてしまったようだ。
どっぷりと死角を捉えた俺は真正面から駆け寄って、大鬼の膝から腹、腹から肩口へと一気に駆け上がる。
「ガアッッ!?」
大鬼は俺を掴もうと剣を放り捨てて身を捩るが、その時には俺はもう大鬼の頭頂部上で太刀を上段に振り上げていた。
…さて、鬼の頭蓋はどのくらい硬いかな?
落雷の如く振り落とされた太刀が大鬼の頭部を額から断ち割り、足場が二つに分かれてしまった俺はトンボを切って石畳へと舞い戻った。
着地も問題なく決まると、眼前の大鬼は糸が切れた人形のように崩れ落ち塵と化していく。
「ブ、ブルォ…!?」
あっという間に3体の大鬼が塵に還る一部始終を肥満体の化け物は呆然と見ているだけだったが、ここに来てようやく起動したのか棍棒を振りかざして俺に向かって来る。
…こいつらはつまらんから、すぐに片付けよう。
再びの迅雷が駆け巡ると5つの首が宙に舞う。
残された胴体は治癒の力を働かせようといっとき切断面を蠢かせるのだが、やがてつなぐべき首がすでに無いことに気付いたのか、諦めたようにハラハラと塵と化していった。
…ふぅ。
3体目はイメージに無いとっさの動きだったが、もう一度やれと言われても問題なくやれるのでいいだろう。
用意してきた戦法も、通路の中央付近に陣取られると使えないという弱点はあるが、それと露見するまでは十分に使いようがある。
敵の位置取りを制限するだけでも、さっきのように動きが読みやすくなる意味はあるしな。
…さて、なかなか手ごたえのある大鬼とひと時の鬼ごっこが出来て楽しかったぞ。
この階層で遊ぶのは、もうこのくらいでいいだろう。
俺は前方に現れた下り階段に視線を落としていた。
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