第97話 歓迎会
俺はいつものルートとは異なり、地下1階層のエレベーターを目指している。
そう、今回は往路にもエレベーターを活用するのだ。
なにしろ探索階層が深まるにつれて、往路にかかる移動時間が増えて来たからな。
前回はまだこれからというところで帰還の時間になってしまったので、俺はもっと遊…探索する時間を確保したいのだ。
そこで今回はエレベーターで地下4階層まで一気に移動し、そこからウォーミングアップを始めていこうと思う。
道中のコボルトなどはもはや完全に無視し、死角をすり抜けることで身を隠すことすらせずに通り抜ける。
通路の横幅いっぱいに隊列を広げていたコボルトスケルトンは、邪魔なので手刀で首を4つほど刎ね上げて塵に還した。
やはりこいつらではもうウォーミングアップにもならないな…。
いや、もちろん身体を動かすだけでも温めることにはなるのだが、サンドバッグを殴りつけているようなもので戦闘感覚の準備としては意味を為さないのだ。
やがてエレベーターの位置に到達すると、青いリボンが反応して扉が開く。
内部空間に乗り込んだ俺は、「4」のスイッチを押下した…。
エレベーターの扉が開くと、一気に濃密さを増した迷宮の空気が肺腑に侵入してきた。
…大丈夫、このくらいの変化では心を乱されることは無い。
周囲の気配を探ると…、これは毒ガスドラゴンの気配か。
俺は背中の太刀を引き抜いて、気配のする方向へ無造作に足を進める。
通路の角を曲がると毒ガスドラゴンが3匹、向こうもこちらに気付いて首をもたげたところで一息に2匹の首を刎ね飛ばす。
驚いたもう一匹が大きく息を吸い込み始めるが…遅すぎるな。
そんなものを待ってやる気もしないので、脳天を叩き割って最初のウォーミングアップは終了だ。
俺は地下5階層への下り階段を目指しながら、巨大アシダカグモや熊人間、オーガなどを遭遇次第に即座に斬り捨てていく。
魔物を斬るたびに、ちょっとずつ身体の芯に火が入って来る感覚がして心地よい。
まだ少し物足りない感覚を残しつつも下り階段に到達し、俺は足早に地下5階層へと下っていく。
地下5階層ではさすがに潜伏しながらいこう…。
それでも進行スピードはさほど衰えず、野犬の魔物や狼人間は即座に切り裂いて、甲冑を着た迷人は背後から槌鉾で頭を叩き潰し、不定形の霧の魔物はつまらないので無視して進む。
タランチュラの魔物は以前に不覚を取ったことがあるので、さすがに慎重に対峙して脚を4本斬り飛ばしてから断ち割り、青いドラゴンはドラゴンスレイヤーを用いて奇襲から一気に5匹を爆散させた。
…いいぞ、やっと身体が温まってきた。
鎖帷子の下に着込んだ厚手の肌着に、ほんのりと汗をかいている感触が感じられる。
そして目の前には下り階段。
俺は顎を撫でて時間の経過を確認するが、まだすべすべとしていていくらも経っていないようだ。
どうやらこのペースで適切なようだな…。
次回からも、その探索で主に活動する予定の階層の2つ手前の階層からウォーミングアップを開始したら良いだろう。
誰かにお勧めするような情報でもないし、あくまでも俺一人に適切なルーティンではあるが。
俺は深呼吸をひとつして、下りの石階段をゆっくりと降り始める。
呼吸のたびに、これまでに到達した中で最も深い迷宮の空気が鼻から侵入してきて、いよいよ頭の芯が研ぎ澄まされてきた。
…いいぞ、絶好調だ。
初めに俺と遊んでくれる魔物はどいつだろうか?
俺が地下6階層のフロアに足を踏み入れると、さっそくコチラを認識して取り囲もうとする集団の気配。
サービスがいいじゃないか。
俺はニンジャ迷人どもの包囲に敢えて飛び込みながら複数人の死角を捉え、右手に打刀を抜き払う動作でまず一人、左手に脇差を抜く動作でもう一人の首を刎ね飛ばす。
その後も次々と手近な者の死角に潜りながら、しゅぽん、しゅぽん、と首を刎ね上げて行くと、6人のニンジャ迷人たちが開いてくれた俺の歓迎会は、あっという間に終わりを迎えてしまった。
もっとたくさんで来てくれても良かったのに…おっと。
彼らの歓迎会にはおまけのプレゼントも用意されていたようで、俺の身体の奥底から力強い脈動が湧き上がって来る。
通算10度目の位階上昇だ。
元の身体能力から比べると…いやすでに元の身体能力とは何かと言う話ではあるが、…まあ160%の出力上昇である。
その上昇した身体能力を用いて日々高負荷のトレーニングを行っているわけだが、それはつまり「元の身体能力」を向上させていることになるのだろうか…?
…まあいいか。
そんなことよりも、次はもう一足遠くから踏み込んでみるとどうなるか、その後はどういう技をつなげるか、幾つかイメージはしているので…早く試してみたい。
俺は石畳に転がった大粒の魔石5つを拾い上げると、未探索の方向に向けて迷宮の通路を歩き始めた。
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