第91話 フィフスサムライ
さて、ブヨブヨした巨大な肥満体みたいな魔物を倒している間に、次の敵にすでに発見されてしまっている。
ちなみに、肥満体の魔物は斬りつけても傷がじわじわと塞がっていくという能力を持っていたが、首を刎ねると普通に塵になったので別にどうと言うことは無かった。
そして今、俺の眼の前にいるのは眼から赤光を放つ1人の迷人。
その姿は暗色の革袴の裾を膝まで脚絆で絞り上げ、腰には大小の刀を落とし差し。
頭には毛量豊かな茶筅髷を揺らしていて…こりゃなんと言うか、映画に出てくる剣豪のイメージそのものだな。
スラリと抜き放たれた刀は、目測で刃渡り2尺3寸。
銘の向きを確かめないとはっきりとは言えないが、サイズから言えば打刀だろうか。
…その刀、欲しいな。
一目見て美しい、さぞ使い出のある佳刀であることがよく分かる。
俺も両手に得物を抜いて対峙すると、剣豪迷人は刀を正眼に中庸の構えを取った。
それは、ちと面白くないな…。
攻防を意識して正眼に構えられては、こちらの攻撃を受け太刀されるかも知れない。
出来ればその打刀は無傷で手に入れたいので、剣豪迷人には受け太刀をして欲しくないのだ。
そこで俺はあえて腰を落として小太刀を半身に引き、捨て身の突きを繰り出す構えを見せる。
それを見た剣豪迷人は、中途半端な防御は危ういと見てか刀を上段に掲げ、俺の突撃を一刀の元に斬って落とす迎撃の備えとなった。
…そこまでは詰将棋の通りだ。
あとは、俺の迅さが貴様に捉えられるか。
そう言えば将棋、エリカに頼んでおいたが上手く伝わっただろうか?
迷宮の空気が張り詰めて、静寂の中に両者の剣気が渦巻いている。
剣豪迷人は後の先か…いや、俺の起こりを拾って先の先を取る腹積もりだな。
…それも、描いた盤面の内だ。
…
…
…いま。
刹那、飛び込む俺の脳天を剣豪迷人の豪速の振り下ろしが断ち割った。
…ように感じられたに違いあるまい。
打刀が振り下ろされたことは事実だが、俺はその場から一歩たりとも動いていない。
俺の脳が発した突撃命令を剣豪迷人は起こりとして捉えたのだろうが、俺は事前に四肢神経に停止命令を固定で埋め込んでいたのである。
そして今度こそ俺は迅雷の速さで踏み込む。
剣豪迷人も刀をツバメに返そうするが果たせず、茶筅髷の首級が迷宮の石畳に弾んでいた。
いやぁ、これは凄いぞ…。
手にした打刀はやはり刃渡り2尺3寸、反りは6分と少々か。
地鉄は木目のような文様が浮かんだ板目肌がよく詰み(引き締まっていて)、刃文は丁子乱れ(蕾のような形の刃文)の美しい匂い出来(肉眼に見えない金属粒子の偏り)。
これは…、下手をすると南北朝期以前の古匠の作なんじゃないのか…?
どう低く見ても重要美術品指定…、いやもう重文指定を避けられないだろうな。
本来は振り回していいような代物じゃないんだろうが、もちろん俺は振り回していく。
ともかく、これで長らく小太刀を主戦としていた得物のアップデートが進むぞ。
膂力の著しい増加に応じて右手の得物を長くしたかったのだが、さすがに太刀ではバランスが悪い。
都合よく打刀が手に入らないものかと考えていたところなんだ。
さっそく質素な漆塗りの鞘を左腰に差し、陣屋大名から餞別にもらった脇差と共に閂差しにする。
うーむ、打刀と脇差で二本差しとなると、もうこれ完全に時代劇の侍の出で立ちになってきたな…。
逆に剣豪迷人が持っていた脇差は1尺ちょっとの小脇差なので、これは自宅に置くコレクション行きかな?
いや、コレクションじゃなくてあくまで予備の武器なんだけどさ…。
それにしても、この重要文化財待ったなしの美刀をこんな実戦的な鞘に納めているとは…、やはり後世の者が考える刀の在りようとは根本的に違う。
如何なる宝剣名刀であったとしても、その本質は人斬り大包丁というわけか…。
まあ、俺は魔物も斬っていくけどね。
これからは主戦の武器としてよろしく頼むぞ。
いやぁ、今回の探索は本当に実りの大きなものになったな。
予備の打刀も欲しいから、さっきの剣豪はまた出てきてくれないだろうか…?
俺は次なる獲物を求めて、迷宮の暗がりを進むのであった。
※フォースサムライは秋山どのです
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