第90話 鎖帷子
大鬼を斃した後に出現した宝箱を開くと、中には興味深いものが収められていた。
紅い宝石と銀貨十数枚と共に現れたのは、一領の立派な鎖帷子である。
何らかの魔法的な効果が込められていることは気配で分かるし、小さくて太い鎖が丁寧に編み上げられていて、魔法を抜きにしても上等な鎖帷子であることが分かる。
斬撃に対してはもちろん強い防御を為すだろうし、これだけ密に編み込まれていれば弱点とされる刺突にもそう弱いということはないだろう。
なにより鎖帷子という物は、隙間なく身体全体を覆い隠しながら動作を邪魔しないことに特長がある。
洋の東西を問わずに戦場で選ばれ続けたことには訳があるのだ。
とまあ、良さそうな品だとは思うのだが俺は使わない。
少々嵩張るがこいつは地上に持ち帰って換金するなり…む?
…込められている魔法の効果が分かったぞ。
この鎖帷子は、手に取ってみても折り曲げてみても、それどころか袖同士を打ち合わせみても、本来鳴るはずの金属音がしない。
こういう効果もあるのか…。
鎖帷子の中に左手を入れて小太刀の柄で叩いてみると、どうやら衝撃を軽減する効果も感じられる。
こりゃあ、いいぞ。
俺は音が出る防具を忌避しているわけだが、これほど静音性が高いならばもちろん文句はない。
まして衝撃吸収の効果まであるとなれば、以前にタランチュラの魔物に不覚を取って受けたような、骨折の負傷も防止できるかも知れない。
俺は周囲の気配を探ると、魔物のいない部屋を見つけて中に入る。
扉の持ち輪に太刀を通して封鎖したならば、久しぶりに迷宮内で行う装備更新作業である。
といっても、現在使っている綿襖甲の内鉄を外すだけで、後は普通に着用した鎖帷子の上から綿のベストとなった外装を着こむだけだ。
鎖帷子の上からベストを着こむのはもちろん静音性の為で、いくら鎖同士が音を発しないと言っても、硬いものが接触すれば相手側が音を発してしまう。
よって、そのままでは迷宮の壁や石畳と接触した際に静音とならないので、外を綿のベストで覆うわけである。
鎖帷子は手首のあたりまで守る長袖で、裾も太ももの上半分をカバーしているし、頭部も頭巾のように一体となっている。
俺は剣道の豆絞りのように手拭いを頭に巻いているので、その上に鎖帷子の頭巾をかぶって、さらに手拭いで鉢巻をすることでズレないように固定した。
これで視界を邪魔したりする恐れもないし、汗の吸収性も良いだろう。
むしろこれまでのヘルメットよりも通気性には優れていると言える。
ふむ、脇の下や腰回りにダブつきがあってそこは少しだけ不満だな。
地上に戻ったら鎧の直しをする職人を探して、鎖をいくらか詰めて身体に合わせてもらおう。
着用が終わって具合を確かめてみると、少しも動きの邪魔にならないし全く音がしないのが素晴らしい。
試しに肩口から石壁にぶつかってみると、明らかに身体に伝わる衝撃も少ない。
やはり防御性能の面においても単なる鎖帷子ではないな。
こりゃあ、良い収穫ではないだろうか?
今回は太刀や脇差の予備も手に入ったし、装備面での実入りが大きい探索となったな。
俺は新しい装備に浮き立ちながら、その場で太刀を振ってみたり飛び跳ねてみたりと感触を確かめるのであった。
おや、これは?
装備を更新していた部屋を出て少し移動すると、別の部屋の中から懐かしい気配を感じる。
この気配は…、地下1階層で遭遇したアイツではないだろうか?
俺は部屋の中に他の魔物の気配が無いことを確かめると、扉を開けて踏み入った。
部屋の中には、豪華なマントを着た細身男の彫像が佇立している。
やっぱりこいつか。
俺が近づくと彫像が動き出し青白い幽鬼のような魔物が現れるが、即座に首を刎ね飛ばした。
塵となって消えゆく魔物から微かに漂う鉱毒の臭いは…これは硫化銅か。
前回に対戦した時は毒の種類までは分からなかったのだが、どうやら俺の位階が上昇することでクラスの恩恵が進化し、より微細な化学分析能力を手に入れているようである。
前にやったときは、もう少し苦戦したんだったか…?
まあ、それだけ俺が強くなったということなら、それでいいか。
俺は久しぶりに獲得した幽鬼のマントを拾い上げると…価値の割に嵩張るのでやはりその場に捨て置くのだった。
★★★★★やブックマークはもちろんのこと謎スタンプもいただけますとモチベーションになります!




