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【web版】現代忍者は万能ゆえに異世界迷宮を一人でどこまでも深く潜る  作者: 左兵衛佐


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第89話 大鬼


 俺は深呼吸して、地下6階層の空気を肺腑いっぱいに満たす。

 これまでと何も変わりはない。


 新たな階層に潜るたびに、その冴えた空気が俺を研ぎ澄ませていく。

 ただそれだけであるし、それさえあれば良いとも思う。


 迷宮の風景にも変わりはない。

 あの迷人部屋のような圧倒的な禍々しさも、見当たらない。


 …それはちと不満なのだが、しかし魔物の気配はいい。

 既知の魔物も多数いるが、未知の魔物の、それも強力な気配をたくさん感じる。


 いいじゃないか。

 今日はここで遊んでいこう。


 いやいや、まずは帰りの足となるエレベーターを発見しなくては。

 満足するまで遊んでから探すのでは、帰りが遅くなりすぎてしまう。


 エレベーターは各階層の同じ座標を貫いているので、向かうべき方向はハッキリしている。

 俺は地下6階層の石畳を踏みしめて歩み始めた。





 さっそく良さそうなのがいるぞ。


 あれは…オーガによく似ているが2回りほど体躯が大きく、皮膚の青さもより深い色合いの大鬼が3体。

 そして、その手には棍棒ではなく剣を備えている。


 …身の丈3メートルを優に超える巨体が備える剣とは、なんという巨大な武具だろうか。

 あれを戦利品にしても人間が扱える握りの太さではないので、鋳溶かして鉄材とするしか価値がないだろうな…。

 

 まあ、あの巨大な首級を挙げてみたいという欲求に応えてくれることが、最大の戦利品だろうな。

 実際、それで十分だ。


 俺は背中の太刀を抜き払って、迷宮の暗がりを静かに潜り進む。

 視覚処理構造がオーガと同様であれば、たぶん死角を取れると思うが…。


 いや…、同じと言えば同じだが、まるでクロックの早さが違うな。

 あのバカでかい図体でありながら、これほど敏速で緻密な視覚処理を備えているとは。


 …となると、あの剣の振りの速さもオーガと同様ということはあるまい。

 攻撃知覚と視覚処理がかけ離れているということは考えにくい。


 あの巨大な剣を、敏速に、緻密に振るうのか。

 …それは面白そうだ。


 俺は手近な1体の背後から忍び寄り、一足の間合いにまで接近する。

 首を刎ね飛ばすには跳躍しなくてはならないが…そんな隙の多いことは当然したくない。


 脚を狙うか…。

 丸太のような足だが、足首ならばどうだ?


 俺は3体の大鬼の脳波を拾いながら、ほんのわずかでも重複するタイミングを探るのだが…、そんな都合の良いタイミングは無いな。

 仕方ない、手近な順に優先して探る。


 …


 …


 …いま。


 にわかに迷宮に閃いた剣刃が大鬼の右足アキレス腱を断つ。

 足首ごと斬り飛ばすことはできないか、凄まじい硬さの皮膚だ…!


「グゥアアァッ!?」


 もんどりうって倒れる1体と、剣を掲げてこちらに向き直る2体。

 ここでも片方しか死角を取れない。


「ギュオ!?」


 死角を取った方の大鬼の太ももを斬り裂いていく。

 これまたとんでもなく硬い手応え、魔力を通した太刀でこれとは。


「ガァアッ!」


 襲い来る巨大な剣をしゃがんで躱すが、遅れて叩きつけられる剣風は躱せない。

 踏ん張った脚がズルッと音を立てて身体が退いてしまう。


 ちぃっ、体重の軽さが祟っている…!

 2体の大鬼が巻き起こす剣の嵐が俺を襲い、剣閃の本体は躱すのだが突風に翻弄されて体勢が維持しがたい。


 アキレス腱を断たれた1体も、ひょこひょこと片足で跳ねながらこちらに近寄って来る。

 このままでは3対1になってしまうな。


 まともにやり合っては、かなり厄介な相手であるとよく分かった。


 …では、こうしようか。


 俺は剣の横薙ぎを下がって躱すと、マジックバッグから素焼きの陶球を取り出す。


 陶球の中には硝石と硫黄そして砂糖が詰めこまれていて、さらに酢酸鉛をエタノールで加工した、いわゆる鉛フルミネートを球の穴部分に詰め込んである。


 まあ、使って見せよう。

 俺は陶球を振りかぶって、大鬼どもの足元に叩きつけた。


 ばぁん、と炸裂音がして、鉛フルミネートの衝撃燃焼から本体の化合物に燃焼が広がる。

 瞬時にして黒煙が立ち込めて、大鬼どもはすぐに視界を失った。


 要するにこれは、煙玉である。


 なおこの煙玉、中身の煙薬は古式の通りなのだが衝撃燃焼薬にちょっと問題がある。


 錬金術店から調達できる材料の関係から鉛フルミネートを使用しているため、煙に多少の毒性があって俺自身も煙幕内にあまり長居できないのである。


 よってここからは、サクサクと片付けていこう。


 大鬼どもに多少気の利いた視覚能力があったとしても、所詮は目で見て剣を振っているに過ぎない以上、あとはもう消化試合である。


 俺は呼吸を止めたまま、めちゃくちゃに振り回される剣を掻い潜りながら大鬼どもに次々と手傷を負わせていく。

 ときおり煙幕の外に出ては息を継ぎ、煙が薄くなれば煙玉を再度投げ込む。


 そうこうしている内に、脚をボロボロに切り刻まれた1体が膝を屈したところで首を刎ね飛ばした。

 残り二体も、多少の時間は要するもののやることは同じである。


 やがて煙幕が晴れると、そこには巨大な剣と魔石だけが残されているのみであった。


 うーん、煙玉を3つも消費してしまったか。

 帰ったらまた作成しなくてはならないが…、原料になる酢酸鉛を自宅で加工すると婆さんがうるさいんだよな。


 たしかに、毒物を子供たちに触れさせてはならない。

 だから俺も、一度に使い切る分しか調達しないようにしているのだ。


 …また夜中にこっそり作製しよう。



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