第81話 ドラゴン②
宝箱の中から出てきたのは、刃渡り90cmほどの片手剣だ。
うーん、片手握りで3尺というのは相変わらず西洋剣ならではのバランス感だな。
柄にカウンターバランスの重りをつけてはいるが、そんなことをするくらいなら素直に短くしたらいいのにとも思う。
この設計では剣全体が重くなるし…、いや打撃力の為にわざとそうしているのか。
まあいい、俺が使う訳じゃなくてコイツはシーロたちへの土産、いや売り物だ。
ご希望通り魔力が込められたマジックソードだからな。
ベリンダが使うような両手剣じゃないが、シーロとダリオは片手剣使いだったから、まあどっちかが使うだろう。
手に吸い付いてくるような感覚があるし、おそらく取り回しを向上させるような効果があるに違いない。
…あれはドラゴンか?
迷宮の暗闇に隠れて、俺は通路の角から様子をうかがう。
そこには特徴的な翼と鱗の身体をもつ魔物が6匹たむろしていた。
以前までのドラゴンとは違う種類のようで、青みがかった翠の美しい鱗をしている。
いかにも毒々しい色合いだった以前のドラゴンとは、かなり印象が異なるな。
まあ別に姿かたちが美しかろうが醜かろうがどっちでもいい。
重要なのはアイツがどういう攻撃手段を有するかだが…、たぶん何か吐くんだよな?
毒ガスを吐くのはすでに目撃したが、ステレオタイプに火を吐くこともあるだろうか。
現在の綿襖甲は明礬に浸して難燃処理を施してあるので、一瞬ならば火炎に晒されても大丈夫だとは思うが…、いやそんなの温度次第だな。
数が多いから忍び寄って何体か斬るとして、乱戦に持ち込めば吐息を使いにくくさせられるだろうか?
これまでに魔物の同士討ちと言うのは見たことが無いんだが、さりとて同士討ちを気にする風の動きも見たことが無いんだよな。
死角はつかめるだろうか…?
虫なんかに比べれば動物的な脳を持っていそうだが…、ドラゴンの脳や感覚器官がどうなってるかについて知識はないしな。
ともかくやってみるか。
俺は闇に紛れて慎重に距離を詰めながら、ドラゴンどもの死角周期が重なるポイントを探る。
…動物的ではあるが、かなり独特な視覚処理をしているな。
おそらくは色に関する情報が人間の眼とはかなり違うのだろうが…、並行して他にもなにか人間とは異なる機序を持つ知覚処理が走っている。
これはなんだ…?
視覚よりも随分と狭く、そして深い。
きっと光学器官よりも、もっと大きな振れ幅を持つパラメータを捉えるための器官が…熱か。
こりゃ、蛇のピット器官みたいなサーマルセンサーが備わっているに違いない。
これ以上近づくと身を潜めていても無駄だな。
光と熱の知覚処理を欺いて死角に潜る…こりゃ無理だ。
よし、もっとシンプルに行こう。
熱器官は指向性を持っているようなので、頭がコッチを向いていないタイミングで行く。
俺は闇に身を潜めたまま、ドラゴンスレイヤーの柄に手をかけて飛び出すタイミングをじっと待つ。
頭が向こうを向いて、しかし死角周期がダメだ。今度はその逆。次は…。
…今。
迷宮に迅雷が奔り、振りぬかれた刃が4体のドラゴンを破裂させた。
相変わらず凄い威力だ。
残る2体のうち片方に飛び掛かりドラゴンスレイヤーを胸に突き立てる。
破裂するドラゴンの血肉を浴びながら、俺は背後で高まる圧力に気付いていた。
…くそ、一手足りなかったか。
何が来る、毒か、炎か。
その刹那、極低温の氷気が嵐となって俺を包んだ。
そういうのもあるのか…!
俺は魔力を燃焼させて氷気に対抗し、体内に喰い込まんとする霜柱を必死に押し返していく。
やっと嵐が収まった頃には薄目にした上下のまつ毛が凍ってくっつき、もうまともに目を開けることも出来ない。
…でもまあ、間抜けな話ではあるよね。
まともに吐息を喰らった俺も間抜けだが、コイツはその上を行くと思うよ。
そんな馬鹿みたいに極低温の氷気を撒き散らしたら、もう生体熱の情報なんて拾いようがないじゃん。
俺は目を閉じたままドラゴンの脳波を探り、死角に入り込んで消え去るとゆっくり背後に回り込む。
ドラゴンはせわしなく頭を動かして俺を捜索しているが、さっきから視界には入ってるんだが認識できていない。
…これで終わりだ。
…よくも俺をボロボロの叱責確定にしてくれたな。
最後のドラゴンが破裂して、後には凍り付いた装備をどうするべきか頭を悩ませる俺だけが残されていた。
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