第80話 混成
反省すべき闘いだったが、まずは位階上昇だ。
肉体の奥深くから湧き上がる力を感じるのはこれで9回目。つまり、第10位階の大台に到達したわけだ。
手足の感覚を確かめてみると、まあ想定イメージの通り。
元の身体能力と比して235%の出力になっているわけだが…、今さらだからどうと言う感慨はない。
いきなり235%になったならばそりゃ仰天するだろうが、あくまでも直前からは1割程度の上昇でしかないからな。
いやそれも本来は凄いことなんだが。
身体の慣らし運転の前に、次は怪我の治療だ。
背中側の肋骨を複数折られたので運動能力の低下と、これ以上の被ダメージによる内臓損傷が恐ろしい。
俺は腰袋から取り出した自作の治癒薬を封切り、酷いエグ味と渋味を無視して一気に飲み下した。
…うん、つながったな。骨。
この世界には数々の不可思議現象があるわけだが、一番はこの即効治癒ポーションじゃないかとも思う。
ちなみに、どんなに優れた治癒ポーションでも千切れた四肢は取り戻せないそうだ。
そこがポーションの限界だなどと婆さんは言っているが、骨折が瞬時に治るだけでも十分呆れる他ない。
まあ、治ったのだから文句は言うまい。
俺は前屈して背筋を伸ばしたり、腰に手を当てて仰け反ったりして損傷部位の状態を確認する。
いいぞ、少し引き攣るような違和感が残っているが、これも身体を動かして暖めていけばすぐに消えるだろう。
だいいち、命を懸けて闘っているのだから、怪我をすれば完全に元通りの感覚に戻らなくて当たり前なのだ。
変化した自身の肉体にアジャストしていくことが必要であるし、鍛錬による筋力の増強だって言うなれば肉体の変化である。
強まったならばそれに技を合わせるし、弱まったのならばそれも同様だ。
さて、目の前の扉の向こうの部屋から感じる魔物の気配なのだが…。
甲冑を着た迷人が3、炎を吐く蜻蛉が6、そして未知の獣の魔物が5、初めて3種類の魔物の混成に出くわしたぞ。
前2者はこれまでの階層でも相対したことがある魔物だが、未知の魔物が含まれている以上ここは慎重に考えよう。
ついさっき痛い目に遭ったばかりだからな。
それにしても、地下5階層に入ってから魔物の数が跳ね上がったとは思っていたが、3種類構成というのも今後はあるのか。
…いや、よく考えると例の迷人部屋は4種類の迷人で構成されていたか。
奇襲の投擲ラッシュで仕留めるべき魔物はどれだろうか。
甲冑迷人は時間をかければどうと言うことの無い相手だが、炎蜻蛉は炎が少し面倒だ。
未知の魔物を真っ先に仕留める考えもあるだろうが…、やはりここは炎蜻蛉だな。
炎を吐かれることが厄介なのもそうだが、虫の魔物というのはどうにも組し難いように感じる。
俺は両手に握った棒手裏剣に魔力を注いでいく。
炎蜻蛉を仕留める威力分ならば、ほんの一息で注ぎ終わる。
いくぞ。
扉を蹴破って室内に踏み込んだ俺は両腕を振り抜く。
迸った煌めきが炎蜻蛉を全て破裂させ開幕ラッシュは成功、俺は両手に得物を構えながら未知の魔物を観察する。
「グゥラアアア!」
「ギャウ!ギャウ!」
子牛ほどの大きさの犬か。
戦意も高く5匹がいっぺんに俺に飛び掛かって来る。
「ギュ!?」
「ギャ!?」
俺は群がられないよう慎重に位置取りを調整しながら、掛かって来た2匹の首を刎ね飛ばす。
なにか未知の攻撃手段はあるのか…?
ともかくさっきのことがあるから、慎重に見極めよう。
残り3匹のうち2匹はアッサリと死角を掴めたので、もう1匹に相対して…簡単に頭部を縦割りに切り裂いた。
ないかな…? ないか?
大したことの無い魔物に思えるが。
ガシャガシャと鈍重な音を立てながら甲冑迷人が駆け寄って来るので、到着する前に仕留めた方がいいか。
「「!?」」
俺は2匹の死角に滞在したまま、一気に首を刎ね飛ばした。
警戒しすぎだったか。
いやいや、このくらいでいいんだよ。
俺は右手の小太刀を鞘に納め、腰袋から掴みだした槌鉾で甲冑迷人の脳天を順に叩き割っていった。
ふーむ、さっきの巨大タランチュラと脅威度がまるで違ったが、やっぱり人型や獣型は相性として組し易いのかも知れん。
まあ油断せず気を引き締めて、宝箱を処理したら次に行くか。
お、これは。
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