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【web版】現代忍者は万能ゆえに異世界迷宮を一人でどこまでも深く潜る  作者: 右近衛将監(左兵衛佐)


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第79話 糸


 小太刀が閃いて最後の狼男の首を刎ね飛ばす。

 素早い動きと強力な爪牙を備えた魔物だったが、でもまあ少し物足りない。


 狼男とネズミ人間の混成で10体ほど出てきたが、死角を出入りしながら首を刎ねていけば、苦も無く数分で終わる闘いだった。


 ふーむ、新たな階層に踏み入ったことで高揚していたんだが。

 現れる魔物の強さで言えば、あの地下4階層の迷人部屋の迷人どもの方が1段か2段強かったと思う。


 やはりあそこは特別な場所だったのだろうか?


 ちょっと物足りないようにも思うが…。


 …おっと、戦闘音を聞きつけてもう次の魔物が接近してくるな。

 この犇めくような魔物の数の多さは、素晴らしい。


 気配の種類は虫だな。

 極わずかに聞こえる足音のリズムは8足、蜘蛛だろう。


 現れたのは地下3階層や地下4階層でも見かける人の背丈ほどの巨大アシダカグモが8、そしてさらにその倍は巨大なタランチュラ風の太蜘蛛が2。


 当然、タランチュラの方が新たな魔物で…いや、アシダカグモの方も何か違うぞ。


 見た目はこれまでと変わらないが、うなじにピリピリと伝わって来る刺激が異なる。

 秘められた脅威度が、より高いに違いあるまい。


 何が違うのかは分からんが、やってみるしかない。


「ふっ!」


 俺を取り囲もうと散開した巨大アシダカグモの最左翼に向けて、短い気合と共に斬り込む。

 こいつらは死角潜伏が通じないので脚を動かして包囲を崩し続けねば。


「ギュア!」


 小太刀と脇差を交互に繰り出してあっという間に4本の脚を斬り飛ばす。

 8本のうち前半分の脚を失った巨大アシダカグモは無防備となり、頭部を縦に切り裂かれて塵と化した。


 …!

 分かったぞ。


 ヤツの頭部を切り裂いた瞬間に毒腺から漏れた成分が、俺の鼻を突いた。

 どうやら毒の種類が違うらしい。


 かすかに臭いを感じただけで鼻孔をビリビリと麻痺させるこの毒は、明らかにこれまでで一番凶悪な毒性を備えているに違いない。


 俺は包囲陣形の再編を許さぬように飛び込み、巨大アシダカグモの脚を2~4本斬り飛ばしては、慎重に呼吸を止めて頭部を切り離していく。


 縦に切り裂くのはまずい。

 さっきの1匹の分だけでも嗅覚が麻痺して戻ってこないのだ。


 これだけの数の毒を飛び散らせては呼吸器に深刻なダメージを負うかもしれん。

 ときおり呼吸のために間合いを取っては…。


 なんだ?


 俺の視界の端、戦闘からやや距離を取って傍観しているかに見えた巨大タランチュラが、前足をこちらに掲げている。


 どうしてこの距離で、そんな姿勢を取る。

 まるで、小銃を手にした兵士が俺に銃口を向けているような…!


 俺は瞬時に二足飛び退がって仮想の射線から逃れる。

 その瞬間、ビュルッという粘性の高い音と共に、巨大タランチュラの前足から糸が射出されて俺が元いた位置を横切った。


 そこから出るのかよ!


 おのれ、でたらめな身体構造をしやがって。

 俺は迷宮に棲む蜘蛛の理不尽さに憤慨しつつも、そうと分かれば遅れを取ることはない。


 巨大タランチュラの前足の挙動を見逃さず、巨大アシダカグモに取り囲まれぬように右へ右へと回り込みながら斬り進んでいく。

 

「キュエ!」


「キシャ!」


 8匹いた巨大アシダカグモもあと2匹、飛んできた糸を躱して、あとは落ち着いて残りを…まずい!


 とっさに小太刀と脇差をクロスさせて作ったガードに、砲弾のような勢いで巨大タランチュラが突っ込んで来た。


「んぐっ!」


 猛烈な勢いで弾き飛ばされた俺は、迷宮の石壁に強かに背を打ちつけられる。

 衝撃で肺からは空気が全て逃げ出してしまい、肋骨にヒビが入る音もハッキリ聞こえた。

 

 ちぃ、やられた。


 さっきの糸は俺を直接狙ったものじゃなくて、巨大タランチュラがヤツ自身を猛烈に引っ張って加速するためのものだったのだ。


 好機とばかりに俺に殺到する蜘蛛ども。

 次々と繰り出される32本の脚と、8本の毒牙と、時折織り交ぜられる糸、そして砲弾のような突撃。


 俺は自己催眠の中で酸素リソースの入出力管理に意識を集中し、全ての攻撃をギリギリで捌き躱しながら、失われた空気の貯金を少しずつ取り戻していく。


 折れた肋骨は左の7・8・9番、右の8番。


 当然左腕の方が動きが鈍い。

 痛覚は切っているのでその点で問題はないが、腕の動きを支えるべき胴体の方が骨折により剛性を変調させている。


 俺にとどめを与えんと高速回転する蜘蛛どもの攻撃の歯車と、小太刀と脇差でそれを払いのける俺の防御の歯車が、迷宮の一角で奇妙な均衡を演じ続けた。


 …だが、まあしかし。

 こいつらにはもう奥の手は無いようだ。いや脚か。


 やがて酸素リソースをほぼ取り戻した俺は、均衡していた攻防を一気に傾かせて蜘蛛どもの脚を1本、また1本、その次は2本で、あとは次々斬り飛ばしていく。


 手数が減って回転数が落ちた蜘蛛どもの攻撃はますます低調に傾き、小太刀と脇差は加速度的に優勢に閃く。


「キュエ!」


「キョィ!」


 アシダカグモの頭部が2つ立て続けに刎ね飛んだあとは、もう終局だ。

 俺は巨大タランチュラの前側の脚を4本ずつ斬り飛ばした後に、それぞれの頭部を切り離して、闘いを終えた。



 …油断しました。はい。



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