第74話 ワンド・オブ・フレイム
「も、もしこの杖が本物の『ワンド・オブ・フレイム』なら、これは凄い発見です…!」
現在は漂人局の一角、迷人部屋で獲得した戦利品をエリカに提出しているところだ。
ちなみに、今日は俺が迷宮から戻った日の翌日の午後となっている。
というのも、俺がうっかり婆さんのポーションを持たずに熱情を発揮したせいで、エリカは昼頃まで行動不能に陥ってしまったのである。
てっきりこの点も叱責を受けるものと覚悟していたのだが、エリカは何も言ってこないのでラッキーだった。
今後は気を付けて、必ず婆さんのポーションを用意しよう。
「聞いていますか、シュウさん!? これが本物なら、各地のご領主様や高名な冒険者がこぞって求める品なんですよ!」
いかん、いかん。
昨日の事を思い出して、ぼんやりとしていた。
なんでもエリカによると『ワンド・オブ・フレイム』とは、魔法の素養を持たない者でも火炎の魔法を発動できる杖で、各地の遺跡や迷宮で稀にしか見つからない大変に高価な品であるらしい。
ふむ、火炎の魔法か。
俺が「魔法使い」の迷人から浴びたものと同じ魔法だろうか?
まあ、俺は使わんので、鑑定の結果が本物ならば売り払ってしまうか。
新居を購入する足しになればいいだろう。
「こちらのポーションも鑑定に回しますが、迷宮産のポーションは治癒薬でも解毒薬でも大変に強力で、人間の薬師では再現できない薬効があると言われています」
「ほう、人間の薬師では再現できない」
そういうことならポーションの方は、種類によっては手元に残そうかな?
重傷や猛毒を回復できるとすれば俺にとっても十分有用である。
誰が調合したとも知れないポーションを飲むことの不気味さはあるが…、漂人局の鑑定済みであるならばまあ、許容できるか。
「はい、ではこの2点を鑑定に回しておきますね」
…そう、鑑定を依頼するのはこの2点である。
青いリボンとそれに伴うエレベーターの存在については、まだエリカにも話していない。
いずれ話そうとは思っているが…、まだ俺の胸のうちに置いておくのだ。
「シュウさん…?」
「ん。いや、なんでもない。昨日のエリカの、美しい姿を思い出していただけだ」
途端に顔を赤くして俯くエリカを見ながら、俺はなんとか胸の裡を隠しおおせたことに密かに安堵していた。
「頭の中に声が直接…、ですか?」
「そうだ。歳のいった男の、堂々たる演説のような声だった」
迷人部屋の奥で遭遇した現象に尋ねてみるが、エリカの記憶を浚っても答えは出て来ない。
「地下4階層の記録はごく僅かですし…、それに攻略したのは、シュウさんが初めてだと思われますので」
なるほど、そう言えばそうだった。
では、俺が手に入れたリボンとその効果と思しきエレベーターの存在も、過去には知られていないのかも知れん。
「もっと古い記録でもいい。何かそれらしいものがあれば、教えてくれ」
「はい、調べておきますね」
こうして調査は依頼しておくが、実のところ手がかりがなくとも構わない。
なぜならば、一番大事なことはすでに判明しているからだ。
すなわち、迷宮にはまだまだ深層が存在する。
きっとそこには、より強力な魔物がひしめいていることだろう。
それさえ分かれば…。
…チリッ。
ん、チリ?
「…シュウさん。迷宮のスリルについて、考えていますね?」
ど、どうしてわかったんだ!?
笑顔のエリカからは、いつの間にか猛烈なプレッシャーが発せられている。
これはいかん、久しぶりのノーモーション叱責モードだ。
「以前のシュウさんと、同じ顔をしていました…」
「い、いや。もちろん今の俺は、以前の俺とは違う!」
これは嘘じゃない、本心だ。
俺だって伴侶を得たからには、無茶無謀な探索に没頭しようという気はない。
「…必ず帰って来るなら、文句は言いません。でも、迷宮が楽しいからと言って、私のことを忘れてしまうなら…」
その時、ニコニコとほほ笑むエリカから光芒が発せられた気がして、俺は思わず目を閉じる。
光の奔流は俺の身体を覆い尽くし体内の邪気を払っていく…、ような気がする。
やがて光が収まり目を開くと、そこには不思議そうに俺を覗き込むエリカの姿があった。
残熱がジリジリと俺の全身にくすぶり、あの後頭部を熱せられる感覚と酷似している。
「どうしたんですか…、シュウさん?」
…本当にそういう特殊能力があるわけじゃないんだよね?
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