第75話 マジックソード
「ぷはっ! 冷たいよ、シュウ兄ちゃん」
「水浴びは冷たいもんだぞ」
頭から井戸水を浴びせられたヴィクトルが抗議してくる。
俺たちはいま、鍛錬終わりの行水をしているところだ。
寒さを感じるような気候ではないのだが、井戸から直接汲み上げた水はたしかに冷たい。
俺は鍛錬で火照った身体が気持ちいいくらいだが、ヴィクトルは風邪をひかないようにすぐに拭いてやろう。
俺にガシガシと頭を拭かれているヴィクトルは、さっきまで騒がしかったのに急に静かになってしまった。
どうしたんだ。
やはり井戸水が冷たすぎたか?
「ねえ、シュウ兄ちゃん。あのお姉ちゃんたちは何をしてるの?」
そう言われてヴィクトルが指さす方向を見ると、ポーション店の勝手口には見覚えのある顔が2つ並んでいた。
一人はいわずもがな女剣士のベリンダ、もう一人はそのパーティメンバーで女僧侶のクロエである。
「あっ、こちらにはお構いなく! おほほ、シュウくんは、どうぞ水浴びを続けてね!」
女僧侶のクロエがわざとらしく口元に手をあてて笑う。
なにがお構いなくなのか。
俺は手早く貫頭衣を着込んで縄で腰を縛った。
ヴィクトルを洗っていただけで、俺はとっくに水浴びを終えていたからな。
「あら、サービスタイム終了だね。アニタは見なくて良かったのかい?」
「馬鹿! アンタたちと一緒にしないで!」
どうやら店内には女斥候のアニタもいるらしい。
というか、アニタの潜伏ならまだ話は分かるのだが、この二人が気配を感じさせなかったのはどうなってるんだ?
「はぁ…たしかに素敵だったけど…。でもベリンダったら、シーロに悪いわよ!」
「フフフ…、目の保養くらいでシーロは怒ったりしないさ。シーロはね、アレは小振りだけど器は大きな男なんだ」
「あらあら、不満なのかノロケてるのか分かりにくいわねぇ」
何の話をしてるんだ、こいつらは。
シーロのパーティの男女事情なんて俺は興味無いぞ。
「アニタもチラッとは見ただろ、ダリオとどっちが良かったのさ?」
「いい加減にしなさいよ! そんなんじゃないったら!」
「バレバレの反応なのよね~。いいアニタ? 男のサイズを教え合うのは女友達の義務なのよ、 義務! …それとも、ダリオのは言っちゃ可哀そうな感じなの?」
「シーロはあの半分も無いよ。どうせダリオもそのくらいだろ?」
「もっとあるわよ! …… ~~~ッ!」
「キャー! ひっかったわね! 観念して詳しく教えなさいよ!」
女3人でなにやらワイワイ言い合ってるが、ともかく警察を呼ばなくては。
婆さんはどこだ?
「おや、悪かったね。アタシが庭に通したんだよ。ヴィクトルと遊んでくれるだろう?」
「一声くらいかけたらいいだろ」
表面上は謝ってはいるが、ドロテア婆さんはまったく悪びれた様子がない。
この世界では男が水浴びを見られたくらいで警察は動かんので、どうやら婆さんには本気で悪気が無いらしい。
「ベリンダ姉ちゃん、剣術しようよ!」
「もう水浴びしたんだろ? 明日また遊んでやるからさ」
「絶対だよ!」
ヴィクトルがベリンダに抱きついて剣術ごっこをせがんでいる。
上手いこと手なずけやがったな…、てか明日も来る気なのかよ。
そしてどうやらベリンダたちは、覗きが目的で来たわけではないらしい。
いや、ベリンダについては怪しいが。
なんでも俺が迷宮深層で手に入れる武器を売って欲しいのだとか。
「ボドワンのお坊ちゃんにマジックソードを譲ったろ? あれは滅多に出回らない物だからさ、アタシたちが使うような剣を見つけたら、是非にも売って欲しいんだ」
ベリンダが提案した対価は、確かにそれらの武具を漂人局に売り払うよりもかなり割高である。
流通や小売りを通さない分、俺も市場価格に近い金額を得られるわけか。
「まあ、見つけたら考えておこう」
「頼んだよ。…それと」
ベリンダの眼が怪しく光る。
もうこの時点で警察の出番だと思うんだが。
「…シュウの長剣もいつだって歓迎だよ。もちろん高値で買い取るからね」
「ちょっと! シュウくんには、エリカがいるのよ。レンタルで我慢しなさいってば!」
ともかく一回、ダメ元で警察を呼んでみよう。
婆さん、110番だ。
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