第70話 リボン
宝箱から出てきたのは、何らかのポーションが入った瓶と、30cmほどの金属製の棒、そしてこれは…、一目で触れてはならないと分かる、禍々しいオーラを放つ指輪だ。
迷宮の宝箱からは時折こうした禍々しい物品が出てくるのだが、エリカによるとこうした物も好事家や研究者がいて、地上に持ち帰ればそれなりの値は付くらしい。
でもまあ、触らぬ神に祟りなしということで俺は無視を決め込んで来たのだ。
金属棒は華奢すぎて武器には見えないな。
むしろ教師の使う指示棒とか、音楽家の使う指揮棒とか、そういう用途に見える。
なんらかの魔法が込められていることは分かるが…、まあ地上に持ち帰って鑑定してもらわないことには、これ以上は分からないな。
そして、このポーションは何の種類だろうか。
これも値は付くのだが、誰が調合したとも知れないポーションを飲む気がしないのは俺だけなんだろうか…?
まあいい、今回はほとんど荷物がないからどちらも持って帰るのに不都合は無い。
お、そうだ。
荷物と言えば。
俺は「重戦士」の迷人が残した戦斧を拾い上げる。
俺には戦斧の良し悪しというのは判断しがたいが、これまでの傾向からして強力な迷人が装備している武具は上等品であることが多い。
現にニンジャ迷人が残した直刀は中々の業物である。
でもまあ、直刀というのが少し俺の技法とマッチしないので、一応持ち帰るにしても部屋に置いておく予備の刀剣になりそうだ。
…そうやって集めた刀剣がそろそろ多くなってきたが、新居に越すまでに部屋が埋まらなければ問題あるまい。
さて、戦斧に話を戻すと。
これはボドワンのパーティへの土産によさそうだ。
ボドワンのパーティに新加入した、一度だけ顔を合わせたことのあるドワーフの戦士。
エイナルとかいったかな? 彼が戦斧使いだった。
エイナルの身長は150cmほどと低いのだが、樽のような厚みのある身体でおよそ小柄という印象は受けなかった。
使っている戦斧も丁度このくらいの大きさで、片腕で振り回すのだとすると相当な膂力である。
少し振ってみると、まあ俺でも振れないことはないのだが、叩きつける以外の技法が全然想像できないぞ。
爺ちゃんから習った手斧の技法なら分かるんだが、これは全然そういうサイズじゃない。
ボドワンの技を無断で使わせてもらったしな。
仲間の武器くらいは土産に包んでやろう。
戦斧は2本ともマジックバッグに収まったので、戦利品については以上である。
俺は迷人部屋のさらに奥につながる扉に身を寄せて気配を窺う。
中に魔物の気配は…ない。
あのニンジャ迷人ほどの手練れであっても、その存在自体は認識することが出来たのだから、まず魔物はいないと思うが。
それを上回るような存在がいたならば仕方ないが…、いや仕方ないでは済まないぞ。
俺は必ず生きて帰るのだから、そんな途方も無い存在と鉢合わせてはならない。
冷静に振り返って、あのニンジャ迷人は技量で言えば明らかに俺の格上だった。
戦術を含めた戦闘力では俺が上回ったし、そもそも事前の偵察を許したことがヤツらの敗因ではあるが、遭遇戦だったらどうなっていたことか分からない。
…ともかく慎重にいこう。
俺はひたすらに神経を研ぎ澄まし、五感をフル動員するだけでなく身体の芯に届く魔力にも徹底的な分析を加えていく。
…やはり、何もいない。
もしこの確信が裏切られるのであれば、そもそも迷宮探索は続行不可能だ。
俺はゆっくりと音を立てないように扉を押し開く。
そこには同じく部屋空間になっていて、中央にはなにやら重厚な台座のようなものがある。
魔物がいないという確信は正しかったので、俺は部屋の中へと踏み入った。
「!?」
そのとき、頭に響くような、年配男性と思しき声が聞こえてくる。
俺は慌てて周囲を観察するが、やはり部屋の中には俺以外の存在は誰もいない。
その朗々と言うべき重厚な声は、やはり通常の音声ではなく俺の頭に直接届いてように思える。
不思議な現象だが…、まあこの世界に来て以来、不思議現象くらい今さらでもある。
やがて年配男性の声が途切れると、台座の上には物品が現れていた。
ちょうど宝箱と同様に、先ほどまで無かったものが急に現れる不思議現象だが、これまた気にしても今さらの事だ。
ともかく嫌な気配は受けないので、俺はその物品を手に取る。
クルリと巻いた青いリボンだ。
たしかこのタイプのリボンは西洋式の徽章の一種だったと思うが…。
まあともかくよく分からんので、これも鑑定に回すとしよう。
…それにしても。
さっきの年配男性の言葉は何語だったのか、一切理解できなかったぞ。
なにやら意味ありげな雰囲気だったがいいんだろうか…?
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