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【web版】現代忍者は万能ゆえに異世界迷宮を一人でどこまでも深く潜る  作者: 右近衛将監(左兵衛佐)


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第65話 信頼


「おやおや。昼帰りとは、ずいぶんと上手くやったもんだねぇ」


「シュウさん。お、お帰りなさい」


 太陽が中天に差し掛かるころに帰宅した俺は、福々とした笑みで迎えるドロテア婆さんに、そこはかとないイラ立ちを覚えていた。


 一方で、顔を赤くして俺を見ようともしないタマラの反応も、それはそれで居た堪れないのだが。


「おや、丸薬は要らなかったかい?」


 出がけに無理やり持たされた丸薬を、たったいま婆さんに返却したところである。

 婆さんの作る薬は信頼しているが、こんな怪しげなものまでは飲めん。


 それに、なんでもかんでも婆さんの思惑通りになっては癪だからな。


 …まあ、もう一つ持たされたポーションの方は、腰が抜けて立てなくなったエリカを回復させるのに使ってしまったのだが。


 空の瓶を受け取った婆さんはこれまたホクホク顔をしながら、頼んでもいないのに再度の調合を約束してくる。


 タマラはますます赤い顔でこちらをチラチラと見てくるし、もう好きにしてくれ。





「…それで、エリカと一緒になるんだね?」


「ああ、そうだ」


 食卓につき、遅い朝飯の麦粥を胃に収めながら俺は婆さんの問いに答える。


 なぜああなったのか釈然としない部分もあるが、なったからには俺は逃げも隠れもするつもりはない。

 エリカを伴侶として迎えるつもりであると、本人にも伝えてある。


 元より俺は、エリカを地上の灯火として帰還の目印とするつもりなのだ。

 その導光が、俺が帰るべき住み処へと続くものになったとして、いったい何の不都合があるだろうか。


 タマラたち姉弟は口々に俺への祝福の言葉だの、俺が出て行くと寂しくなるだのを言っている。

 そういえば全員を新居に連れて行くとまだ言ってなかったな。


 それも、おいおい説明しよう。

 まずは腹ごしらえを終わらせて、それから…。


「…そうかい、そうかい。そりゃあ良かった。これでアンタも、一人で死んじまうわけにはいかなくなったねぇ…」


 雰囲気が変わったことに気付いて俺が顔を上げると、まるで一仕事を終えて安堵したかのような、婆さんの穏やかな笑みがそこにはあった。


 …やれやれ、婆さんの世話焼き好きにも困ったもんだ。





 早朝の澄んだ空気の中、俺は剃刀を顔にあてて髭を剃り落としていく。

 最後に井戸水で顔を洗い流すと、わずかに残っていた眠気が完全に払拭された。


 前日のうちに居間に出しておいた装備類を装着し、腰帯をぎゅっと締めると一気に心も引き締まる。

 武器はいずれも異常なし、ポーション各種と、保存食も万全だ。


 井戸から汲み上げた冷水を革袋に注ぎ込み、しっかりと蓋を閉めて、これで迷宮探索の準備は完了である。


 まだ他に誰も起床しておらず静かなポーション店を出発すると、俺は無人の通りを歩んで迷宮入り口のある広場を目指す。


 10分ほど歩いて漂人局の建物が見えてきたとき、俺はその門前にたたずむ人影があることに気付いた。

 いかに遠目であっても、その暖かな気配を取り違えようもない。


 やがて距離が縮まり、決意と信頼に満ちたエリカの瞳がハッキリと見えてくるにつれ、俺は知らず知らずのうちに早足となっていた。


 そして二人を隔てる距離が消え去ると、俺たちはどちらからともなく身体を抱き寄せ合い、口づけを交わす。


 早朝の静寂の中、まるで時間が止まったように俺たちは重なり続けた。





 …ずっとこうしていたい気もするが、行かなくては。

 

 俺がエリカの耳に唇を寄せると、別離の時を悟ったエリカは一瞬身体をこわばらせ、しかしすぐに落ち着きを取り戻して俺の言葉を待っている。


 ああ、この信頼に応えなくては。


「必ず戻る」


「…待っています」


 俺たちはもう一度口づけを交わすと、名残を惜しむようにゆっくりと身体を離した。

 エリカの瞳を脳裏に焼き付け、俺は迷宮入り口の広場へと向き直る。


 さあ、行くぞ。



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