第62話 姉弟
地下1階に戻って来た俺は、まずは意識を集中して階層内の気配を探る。
前回は偶然ボドワンを発見したが、もしかするとまた新たな漂人がこの世界にやって来ているかも知れないからな。
多数の魔物の気配に紛れて、人間の気配がぽつぽつと存在することが分かる。
それなりに強い魔力をもった5~6人組は、まあ間違いなく探索者のパーティだな。
彼らがどのような状況にあるかまでは把握できないが、人数が揃ったパーティならば地下1階層で危機に陥る可能性もそう多くはないだろう。
これらのパーティまでいちいち様子を確認しに行ってはキリがあるまい。
…それよりも、この3人と思しき弱々しい気配の集団だ。
これはもしかすると、もしかするかも知れない。
か細い気配を頼りに、俺は地下1階層の奥まった区画へと足を向けた。
ここだな。
扉の向こうから例の3人の気配がする。
扉に張り付いて気配の詳細を探ると、小柄な女性が一人と…、あとの二人はこれ子供じゃないのか?
いや、ミクリング族のヤルミルの例もあることだし、ここは予断を持たずに行くか。
ともかく魔物でないことは間違いない、俺は扉を開いて室内に踏み入った。
「ひっ!」
「怖いよ、お姉ちゃん!」
「き、来なさい化け物! 私が相手よ!」
こりゃ、声をかけてから踏み入れば良かったな。
部屋の隅で身を寄せ合って震えているのは、やはり子供たちだった。
ナイフを手に気丈にも俺に立ち向かう姿勢を見せているのは、15歳前後の少女だろうか。
その後ろにはもう2~3歳くらい年少の女の子と、小学校低学年くらいの男の子が見える。
パッと見は姉弟のように見えるな。まず漂人で間違いあるまい。
それにしても、漂人とはこんなにハイペースでやって来るものなのか。
「驚かせてすまなかったな。俺は人間だ」
俺が両手を頭上に掲げて敵意が無いことを示すと、ナイフを構えていた少女はへなへなと膝から崩れ落ちた。
安心してくれただろうか?
「お兄ちゃん、助けに来てくれたの?」
年若い方の少女がためらいがちに俺に問いかけて来る。
「ああ、そうだ。お前たちを地上に連れて行って、保護する役所に預ける」
俺の答えを聞いて3人の少年少女たちはお互いの顔を見あわせ、やがてポロポロと涙を流しながら抱き合って神への感謝の言葉を捧げ始めた。
うーん、こんな年端もいかない子供たちが探索者になるわけもないだろうし、地上で職を探すことになるんだろうな。
それでも、親も無く姉弟だけで生きていくには、中々ハードな生活が待っていることだろう。
まあいざとなれば、姉弟が生活を確立するまでは俺が支援すればよいか。
エリカにもよくよく頼んで、悪くない道を探してもらわんとな。
などと俺が考えていたとき。
ぐ~
ぐぐぐ~
少年少女たちから盛大な腹の虫が鳴き始めた。
もしかしてこいつら飲まず食わずでいたのか? いや、そりゃそうなるか。
「出発の前に、まずは腹ごしらえにするか。まあ保存食だから、旨いとは言えんがな」
俺は腰袋から食料と水袋を取り出す。
今回は短めの探索だったので、あと2日分はあるだろうか。
内容は堅く焼き固めたパンと干し肉、そして夕顔のような植物の実を干したもので、宣言通り旨いとは言い難いものなのだが、それでも空腹の3人は貪るようにして口にしていった。
こらこら、よく噛んで食べないと腹を下すぞ。
粗食に慣れた戦国武将でも陣中食に当たった例は多くあるんだからな。
腹を満たして人心地ついたのか、やっと3人から前後の状況を聞き出すことができた。
それによると3人はやはり姉弟で、長女がタマラ、次女がジーナ、末っ子がヴィクトルと言う。
姉弟と言っても血のつながりはなく、この3人は元の世界でも身よりない孤児であったらしい。
それでも3人はお互いを姉弟と擬制しているようなので、その点は俺が口を出すことではない。
まあ世の中には血のつながった肉親でも憎しみ合う者たちがいるのだから、心がつながりあった子供たちが姉弟で何も問題はあるまい。
話が逸れたが、姉弟たちは元の世界での暮らしのことも教えてくれた。
なんでも、教会的な宗教施設で起居しながら薬草を練って膏薬にしたり、ハーブを採取して…、ん?
薬草のくだりをもう一度詳しく教えてくれ。
ほうほう、長女は教会の経営者に腕を認められるほどの調薬をしていたと。
次女も末っ子もそれを日々お手伝いしていたと。
ふむふむ…、なるほど。
ドロテア婆さんに言って、空き部屋にベッドを増やさないとな。
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