第60話 閃き
ドラゴンどもと戯れはしゃぎ疲れた俺は、虚脱感を回復するために休憩を取ることにした。
迷宮の一室に腰を落ち着け自作の滋養ポーションを飲み下す。
すると途端に、えも言われぬエグ味と舌を刺すような苦みが口中に広がった。
うーん、たぶん薬効の面ではドロテア婆さんの作るポーションに近しいところまで来ているのだが。
どうしてこれほども味の違いが出るのだろうか。
まあ、効けば味なんかどうでもいいとも言えるが。
…こういう精神性も影響しているのかも知れないな。
ドラゴンスレイヤーを手に取って眺めて見る。
美々しい刀身には傷ひとつなく、先ほどの凶悪なまでの魔法効果が嘘だったかのように穏やかな佇まいだ。
そして、少し魔力を込めてみても、さきほどのような超電導の魔力浸透はもう無い。
むしろ刀身に宿った魔力が邪魔をして、普通の刀剣よりも魔力を込めにくいくらいである。
ふーむ、やはり名前が示す通りドラゴンの眷属に突き立てた場合にのみ、使用者の魔力を増幅して送り込むアンプのような作用を示すのだろう。
最初に使ったように、こちらから意図して魔力を送り込まなくても剣自身が勝手に吸い上げるので、魔力の扱いに慣れないものが使ってもドラゴンを殺すことにかけては遺漏なく働くに違いあるまい。
こうした特定の種類の魔物に有効に働く武器が、他にもあるかも知れないな。
そうするとやはり、俺は武蔵坊弁慶のように多数の武器を背負って歩くことになるのか。
滑稽な姿を想像して笑いがこみあげてくると、身体の芯の虚脱感もいくぶんマシになって来た気がする。
よし、あとは敵を求めながら回復していけばいいだろう。
その後は、体力を回復させながら大型犬の魔物やら火を吐く蜻蛉の魔物やらを切り裂いていく。
やはり魔力を通した小太刀や短刀からは、戦闘後に魔力を回収できるので効率がいい。
これならば無限に闘っていられそうだが、そろそろ本来の目的に沿った目標も見つけたいところだ。
と、そのとき。
迷宮の通路の先に特徴的なコバルトブルーの巨体が見えた。
お、あれはオーガ。7体もいるぞ。
これは一番いいのが出たかも知れん。
あいつらは皮膚がやたらと硬く、魔力浸透を身に着ける前には一発で刀剣をダメにしてしまった覚えがあるからな。
きっと棒手裏剣が貫通しない頑丈な的になってくれるだろう。
サイズが大きいことは的として容易すぎるが、そこは狙いを絞って自分で難度を調整すればよい。
迷宮の暗がりに身を潜めた俺は、両手に棒手裏剣を構えたまま精神を集中していく。
こうして大声を発しなくても、時間をかければ棒手裏剣に魔力を充填できるようになってきた。
まだ周囲への魔力漏れが酷いので、鋭敏な相手には奇襲の用をなさないだろうが、それでも長足の進歩である。
やはり、実戦の中で磨く技が一番伸びてくれるな。
いっそ生活のすべてを迷宮に…、いやいや落ち着け。
それでは栄養補給はどうなる? 睡眠は?
休息は剣を振りながら適宜とれるにしても、人間とはそれだけで生きることは出来ないのだ。
それになにより…、いや集中を乱し過ぎたな。
魔力が揺らぎ始めている棒手裏剣に、俺は再度魔力を込めてピークを安定させる。
投擲のシミュレーションは終わった。
いくぞ。
「「「「「…!?」」」」」
「グボッ!?」
煌めきの残滓を残して飛んだ6本の棒手裏剣は、その内5本は狙い過たずオーガの眼窩を捉えて一声も発する暇を与えずに絶命させた。
しかし、1本は狙いのやや下に外れて、頬骨のあたりを穿たれたオーガは断末魔の声を残して塵となっていく。
…もう少しだな。
もう少しで何かが、閃きそうな。
その時、魔力を消耗して空隙があいた俺の身体の奥底から、突如として力が湧き上がる。
位階上昇だ。
不思議なもので、無くなったと思った魔力がこうしてどこからともなく…、まてよ?
そうか。
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