第54話 投擲
脳裏を焼き尽くすような猛烈な火炎魔力が襲来するが、俺は十分な魔法抵抗を持ってこれを跳ね返す。
いやダメだ。
これでは消耗する魔力が大きすぎて継戦を望めない。
「魔法使い」迷人の魔力から予想される魔法の威力に、瞬時かつ的確に対抗するのだ。
ダメージを完封すれば良いというだけでなく、戦闘全体を見通した魔力管理をしなくては。
しかし、何度シミュレーションをやり直しても確かな勝ち筋にたどり着かない。
やはり開幕で敵後衛を討ち漏らす想定では限界がある。
勝利の鍵は、投擲だ。
もう一度最初からやり直す。
俺は両手に3本ずつ棒手裏剣を握り込み、迷宮の扉を勢いよく蹴り破って即座に投擲を開始した。
右、左、右、左、ここまでが命中を見込めて、次の右投擲は躱される。
「魔法使い」と「破戒僧」に一撃ずつを与えているが致命傷は…、無い。
やはり敵の後衛がいずれも健在である。
脳裏で迫りくる魔力の渦、そして重装甲の「戦士」が両脇から迫り、背後には巧妙に気配を殺した「暗殺者」、いやニンジャの脅威。
魔法防御に魔力を使い果たした俺は、剣刃の圧力に飲み込まれてしまった。
では「魔法使い」に2本ずつ棒手裏剣を送り込むか?
いや、それでは…。
いかん、もう真夜中か。
昼間の鍛錬と栄養補給、それに加えて適度な休息を欠かすわけにはいかない。
ただでさえ俺は、一度迷宮に潜ると長期間の不眠不休行動をしてしまうのだ。
最速で心身の消耗を完全に回復しなくては。
そして、薄皮を重ねるようにして鍛錬でもう一回り自分を大きくして、次の探索に挑むのだ。
位階上昇だけを見込んで、それに振り回されてはいけない。
あくまでも俺の内にある業を高めることで、あたかも俺をそのまま巨大化したような、機敏で、柔軟で、そして果てしなく強力な戦技を磨き上げるのだ。
明日は鍛冶屋の仕事が済んでいるだろうから、受け取りに行かなくては。
「なんだい、盾ばっかりそんなに集めてさ。アンタもパーティを組むことにしたのかい?」
「いや、投擲の的にするのさ」
「は~やれやれ、こりゃうるさくなりそうだよ」
ドロテア婆さんが呆れているように、俺は鍛冶屋で打ち直した棒手裏剣を受け取るだけでなく、金属製の盾を多数購入してきた。
確かにうるさくなりそうで婆さんには悪いが、当分は投擲強化週間にさせてもらおう。
婆さんのポーション店の裏庭に回った俺は、午前中のウェイトトレーニングに使用した器材を片付けると地面に杭を打って盾を括りつけていく。
迷人部屋の大きさを想定して約10mの距離を取ると、俺は精神集中を開始する。
…金属盾も多数用意したし、鍛冶屋には追加で棒手裏剣を鍛造する注文をかけている。
これから毎日、手元にある棒手裏剣を潰すつもりで投げ込んで行こう。
俺の第一投が金属盾を捉え、甲高い音を発して棒手裏剣が跳ね返った。
「ほどほどに頑張って、暗くなったら止めるんだよ。杭はそのままでいいからね」
何のかんの言って若者に優しい婆さんに感謝しつつ、俺は投擲に没頭した。
…はて?
暗くなって投擲練習を終えた俺は、棒手裏剣を砥石にかけながら疑問に至る。
棒手裏剣の切っ先が、潰れていない。
いや、もちろん下したての新品状態に比べると切っ先は丸く潰れているのだが、何十回、何百回と金属盾に激突させられた割には、まだ切っ先と呼べる形を保っている。
金属盾の方は今日一日で大小の穴だらけになったというのに、それとぶつかり合った一方だけがこうも無事では…?
俺は盾に穴を穿つまでに上達したことを内心喜んでいたが、これまた大事なことを見落としているらしい。
高速で飛翔する棒手裏剣が、金属盾と衝突して切っ先を潰す代わりに穴を穿つ。
言い換えると、運動エネルギーが変換されて鋼の相互変形に消費される。
これが物理法則である。
ところが、棒手裏剣はこの不変の法則からなんらかの方策で逃れているらしい。
これは刀剣の損耗度でも感じた疑問だな…。どうして忘れていたのか。
もし、棒手裏剣と金属盾が互いに変形し合う関係が平等ではなく、何らかの力により棒手裏剣の側だけが変形から保護されたならば、エネルギーの辻褄を合わせるためには盾の側がより多くの変形エネルギーを吸収するしかない。
すなわち、それが迷人の肉体であったならば…。
こりゃ今日は寝ている場合じゃないぞ。
いやいや、寝なくては。
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