第51話 ボドワン
「グプッ」
俺の振り下ろした槌鉾がコボルトの脳天を砕き、胸元まで深くめり込んだ。
コボルトの頭部からまき散らされた諸々が、いっとき凄惨な光景を創り出したが、やがてそれも塵となって消え去っていく。
もう少し加減しないとこいつら相手にはオーバーキル気味だな。
地上を目指して地下1階層を移動中の俺は、槌鉾の取り回しに慣れるために魔物と遭遇するたびに積極的に使用しているところだ。
「化け物どもをこんなに簡単に…、おそろしい強さだね、キミは」
地下1階層の片隅で遭難していた新たな漂人、名をボドワンと名乗った青年は呆れたような視線を向けて来る。
彼は荒事には慣れていないのかな?
エリカの話によると、漂人とは必ずしも俺のように闘いを望んでこの世界に来るものばかりではないらしい。
色々な世界からやって来る漂人たちは、その半数は元の世界でも荒くれものであった者たちだが、もう半数は戦う術を持たない市民もいるそうなのだ。
彼も後者のタイプだろうか。
いや、そうでもなさそうなのだが…?
「ボドワン。あの曲がり角の先にスケルトンコボルトがいる。犬頭の魔物の、そのさらに骸骨の魔物だ」
「ひぇっ、そんな冒涜的な化け物がいるんだね…」
骸骨の魔物と聞いてボドワンは端正な顔立ちを青ざめさせている。
俺が渡した短刀を胸に抱くようにしてプルプルと震えている有様だ。
「それをお前が仕留めて見ろ」
「え!? そんな、無理無理!」
嫌がるボドワンを引き連れて通路の角を曲がり、気配の通り4体いるスケルトンコボルトに向かい合う。
俺はスケルトンコボルトどもの右小手を素早く砕き、危険な武器を喪失させると後はボドワンに任せて見ることにした。
「さあ、やってみろ」
「嫌だって言ってるのに~!」
俺がスケルトンコボルトどもをボドワンの方に追い立てると、観念したのかボドワンは短刀をおそるおそる抜き払った。
右手に握った短刀を前に突き出したボドワンは、半身の態勢となって左手は腰に当てて胸を反らす。
やっぱりな。
見慣れない武術体系だが、素人ではない。
視線の送り方といい、足運びといい、何らかの武術を身に着けているのは一目瞭然であったのだ。
武器を入手できずに往生していたのだろうが、たぶんやれるだろう。
「えいっ!」
半身の態勢のまま滑るように踏み出したボドワンは、短刀を突き出してスケルトンコボルトの盾を弾き上げる。
さらに素早い手首の返しで短刀を翻らせ、スケルトンコボルトの肋骨を峰打ちに砕いた。
しかし、あれは意図的な峰打ちじゃなくて短刀の片刃が祟っただけだな。
きっと両刃剣を前提とした技法に違いない。
「えいっ! えいっ!」
その後も慎重に距離を測りながら半身で短刀を繰り出すボドワンは、時間をかけつつも2体までスケルトンコボルトを屠った。
ふむ、力強さは無いが、突き技と離れ技のセットで構成される技法は中々洗練されているぞ。
フェンシングに近いが、斬撃を伴う離れ技があることからより実戦的な武術だ。
「はぁ、はぁ! ねえ、もう限界だよ!? 助けてよ!」
そう言うボドワンは息もあがって動きが鈍くなってきている。
確かに、飲まず食わずで迷宮を彷徨っていたのなら体調も万全ではあるまい。
俺が残りのスケルトンコボルトの頭骨を槌鉾で叩き割ると、ボドワンはその場に力尽きてへたり込んでしまった。
ちょっと無理をさせ過ぎたか。
荒い息遣いで迷宮の石畳に手をつくボドワンをひとまず置き、俺は出現した宝箱の鍵を解除する。
これは彼にとって、この世界での初陣の戦利品になるわけだな。
お、これは。
出てきたのは数枚の硬貨と、刃渡り50cmほどの軽量な両刃剣だ。
地上の武具店ではショートソードと呼ばれていた分類の片手握り剣だな。
簡素な拵えだが品質的には良好な様子である。
「ボドワン。動きを見ていたが、この剣の方が扱いやすいか?」
「はぁ、はぁ…。う、うん。まあそうだね…」
ショートソードを渡されたボドワンは手に取ってバランスを確かめ、鞘から抜いて刀身を検めて頷いた。
やはりな、彼の突き技と手首の返しによる離れ技の技術体系は、切っ先の鋭い両刃剣が合うと思った通りだ。
これなら次は無害化した魔物を渡さなくても良さそうか?
是非、剣同士の技法も…。
「というか! どうして僕を戦わせるんだい!?」
ははは、よく分からんことを言うやつだな。
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