第50話 槌鉾
サムライどもを屠り予備も含めて刀剣を更新した俺は、宝箱から更なる武器を入手していた。
出現したのは金属製の槌鉾である。
全長約60cm、先端の膨らみからは6対のエッジが突出していて、打撃時の衝撃を一点に集中させる構造だ。
柄も含めて総金属で、握り手は指の形に凹凸が設けられていて握りやすくなっている。
ふむ、総金属だけあって相応の重さだが、今の俺の膂力を持ってするとむしろ丁度良い。
これまた魔法的エネルギーを内包していることから、なんらかの追加効果もあるのだろう。
軽く振ってみて、さらに左掌で軽く先端を受け止めて感触を確かめた時、その追加効果も分かった。
明らかに左掌に伝わる衝撃が大きく、ジーンと痺れるような重さを感じたのだ。
なるほど、インパクト時の衝撃を増加させる効果なのか。
これは槌鉾の使用目的と合致した、非常に有効な魔法効果だぞ。
今回の探索でも課題に挙がった通り、スピードと切れ味を重視した武器構成である俺は、全身鎧のような重装甲に対する打撃力に欠けている。
地上に戻ったらまさにこういうコンセプトの武器を追加しようかと考えていたところなのだ。
こりゃいいぞ、是非持ち帰ろう。
腰袋がいっぱいなのでこの槌鉾は手に持って帰還することにしよう。
…ますます弁慶じみたゴテゴテ感になってしまったな。
その後、地下3階層から地下2階層にかけては、身体をゆっくりと減圧していくかのように慣らし運転しながら通り過ぎる。
道中ではあまり積極的に魔物を求めなかったものの、通り道にいる魔物はサクサクと処理して地下1階層まで戻って来た。
ここまで来ると本当に迷宮特有の空気が薄いな。
あとは真っすぐ地上まで戻っても支障あるまい…んん?
その時、不自然なほど弱々しい気配が俺の感覚に届く。
これは手練れの迷人が気配を殺しているような感じとは違い、本当に生命力そのものが弱い波動が、しかも一つだけ孤立しているのが分かる。
どうも迷宮探索の帰りがけにはいつも変なのに遭遇するな。
また遭難者の類かも知れんし、仕方ないから様子を見に行ってみるか。
微かな波動を頼りに地下1階層の片隅にやって来た俺は、迷宮の廊下でへたり込んでいる青年を発見した。
向こうはまだこちらに気付いていない様子だが、瞳も人間のものだし、どうやら遭難者という想像は当たっていたかも知れない。
それにしても、普段着のような衣服に武装も見当たらず、どうしてそんな不用心な恰好で…まさか。
「おい、大丈夫か?」
「ひぃあああ! く、来るな! 僕を喰っても旨くないぞ!」
俺が声をかけると青年は飛び上がって驚き、両手をブンブンと振りながら後退った。
こりゃ、たぶんそうだな。
「落ち着け。俺は人間だ」
「…あ? あ、ああ、人間! 本当に人間だ! お願い助けて! 僕にはここがどこだか、化け物もいるし!」
やはり、彼は新たにこの世界にやって来た漂人だな。
少し前の俺と同様に、その身一つで迷宮をさまよい歩いていたのだろう。
「分かった。ともかくここは危険だから地上を目指すぞ、俺について来い」
「う、うん」
俺がそう言うと青年はコクコクと頷いて了承するが、心配そうな表情が晴れない。
丸腰だと不安だろうか?
まあそれもよく分かる心理だ。
俺もこの世界に来た当初、たまたま運良く武器がすぐに得られて心強かったからな。
俺は腰袋から地下4階層で手に入れた直剣を引き出し、青年に持たせる。
しかし呆け顔で直剣を受けとった青年は、俺が手を離した途端に直剣の重みに負けてつんのめってしまった。
「お、重たすぎるよ。こんなのとても僕には扱えないや」
はて、見たところ上背もあってそれなりの体格かと思ったんだが。
まあそういうことなら予備の短刀を持たせるか。
「これなら…まあ。で、でも僕は戦えないよ! お願いだから、化け物が出たらキミが護ってね!」
うーん、この階層でそれほど危険な魔物が出るとも思えんが、まあ俺も最初は初めての命のやり取りに身構えたからな。
彼の初心を嗤う気にはならない。
予定外の出来事ではあるが、彼を先導しながら地上を目指すことにしよう。
人助けをするとエリカの叱責を回避しやすいという実績もあるしな。
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