第49話 セカンドサムライ
「ギュッ!」
盾を割り砕かれたネズミ人間が衝撃で尻もちを着く。
ちっ、盾を割るだけで貫くには至らなかった。
というか棒手裏剣の切っ先がどれも潰れてしまって、もうこれ以上は練習にならないな。
地下4階層のネズミ人間を狩り尽くす勢いで探し回った俺は、おそらく50体以上を棒手裏剣の練習台として屠ったと思う。
手持ちの砥石ではもう対応できないので、地上に戻って鍛冶屋に棒手裏剣を叩き直してもらうしかないか。
俺は呆然と座り込んでいるネズミ人間の首をすぽんと刎ねて、魔石を回収する。
宝箱は…、鍵がかかっているだけか。
簡素なウォード鍵を難なく開錠すると、中からは数十枚の硬貨と、見慣れた胸甲が出現する。
またか、これで4つ目だ。
どうやらこの胸甲はネズミ人間に紐づいた戦利品らしく、ネズミ狩りの副産物として大量に手に入れてしまった。
かさばるフルプレートの鎧と異なり、胸板部分と革紐で構成されることから重ねて収納すれば持ち帰れないこともない。
しかし、さすがにそろそろ収納量が限界である。
これまた何らかの魔法効果があると思われるので、換金額には期待しておこう。
ちなみにこの胸甲は胸板と鳩尾を一枚板で防御する構造なので、綿襖甲のパーツに採用するには可動性に難があると判断している。
さて、色々な面でもう限界なので撤退しなくては。
少しずつ摂取していた食料と飲水も枯渇してしまった。
…あれ、今回の探索はどのくらいの時間が経っているのだろう?
3、4日は保つだけの物資を持ち込んでいたはずなんだが。
まあいいか。
今回は負傷らしい負傷もしていないし、そう大きく怒られることも無いだろう。
久しぶりに地下3階層に戻って来ると、なんだか空気が薄くなったような錯覚をおぼえる。
緊張の糸がわずかに緩むというか、頭の芯がほんの少し鈍るというか。
…もしかして俺は迷宮深層の中毒症状を起こしているんじゃないだろうな?
一気に地上まで帰還するつもりだったが、こりゃ階層ごとにすこし感覚を慣らしながら戻るべきか。
ダイバーが潜水病を回避するようなプロセスが必要かもしれん。
地下3階層の廊下には胴丸鎧のサムライが4人。
エリカによると「帽子付き」と呼ばれる迷人だが、まあサムライの方が分かりやすいよね。
慣らしがてら地下3階層を散策する俺の前に、帰りがけの駄賃に丁度いいやつらが現れたぞ。
今回の探索行で予備も含めて刀剣類がかなり損耗しているからな。
次回の探索に向けて補充させてもらおうか。
棒手裏剣がダメになっているし、ここは接近戦でいこう。
暗がりに身を沈めた俺は、息を殺してゆっくりと集団最後尾のサムライに背後から接近していく。
正対しても斬り伏せることは出来るだろうが、せっかくだから隠密の鍛錬にするのだ。
「…!」
俺はサムライの背後から口を手で塞ぎ、短刀でその喉を掻き切る。
そのままビクビクと痙攣するサムライの身体を拘束して、まず一人…なに!?
死に瀕したサムライの身体から突如魔法エネルギーが迸り、火炎の球体となって迷宮の石壁に叩きつけられた。
この世界のサムライは魔法も使うのか!
これで奇襲が露見してしまった。
前方のサムライ迷人どもが慌ててこちらに振り返り、手にした長巻を向けて来る。
拘束した1人が塵と化して崩れ落ちる中、俺は隠密を諦めて小太刀を引き抜いた。
しまったな。
こいつらの手の内は量り終えたと思っていたが、こんな隠し球があったとは。
「ルォオオオ!」
「ヤェエエエ!」
左右に分かれた二人が長巻を振り下ろしてくるが、俺は退がらずに前に踏み込んで交差する柄の奥に滑り込む。
剣閃が閃いて左右のサムライの首が刎ね飛ぶのと同時に、最後の一人が突きかけて来た長巻を短刀で逸らしながら小太刀でサムライの左小手ごと長巻の柄を斬り落とした。
「…ッ、ヌア!」
サムライが残された右手で脇差を掴むが、俺はその柄頭を足蹴りで抑えて抜刀を封じ、最後のひと突きを見舞う。
「グム…ゥ」
小太刀の切っ先に喉を深く貫かれたサムライは、しかしなお敵愾心の赫眼を俺に向けて魔法エネルギーを高めようとする。
見上げた闘争心だが、しかし。
ぐっ、と小太刀をさらに押し込むと、サムライがかき集めた気力は霧散して、その身体もろとも塵と消えた。
…この闘いは、油断があった。
これも、階層を上がって来たという意識がさせたことか。
もう少し闘って、気の緩みを締め直してから帰ろう。
★★★★★やブックマークはもちろんのこと謎スタンプもいただけますとモチベーションになります!




