第46話 悪魔像
扉の向こうの気配を窺うと何かがいる気配はするのだが、なんと表現したらよいか。
これは呼吸音とか生体音とか言った本来の意味での気配とは違い、この迷宮の魔物が発する特有の禍々しいオーラのようなものだ。
つまり呼吸音や生体音は一切しない。
ふむ、地下1階層で遭遇した骸骨、いやエリカによるとスケルトンコボルトと同様に非生物系の魔物だろうか。
大きさは人間サイズくらいで、気配の数は5つ。
棒手裏剣が通じるだろうか? ともかくやってみるか。
俺は棒手裏剣を左右の手に握り込み、扉を蹴り開く。
…石像!?
俺が放った棒手裏剣が次々と石像の胸元に命中するが、硬質な音をたててはじき返されている。
ちっ、棒手裏剣では意味を為さんか。
腰の高さほどの台座の上に迦楼羅天のような、いや西洋の悪魔のような石像が5つ立ち並んでいる。
これが気配の主なのか…?
いや、石像に徐々に赤みが差して、これは1階層の隠し部屋で遭遇した幽鬼のパターンか。
両手に得物を引き抜いた俺は、手近な一体の悪魔像に向かって駆けよる。
ともかく数を減らそう。
「つあ!」
翼をはためかせて飛び上がろうとする悪魔に小太刀の横薙ぎが届き、その首を刎ね上げる。
手応えはもう、生物のそれに変化しているな。
辛うじて1体は間に合ったが、残りの4体は飛び上がってしまった。
迷宮の天井は10mほどもあるので、蝙蝠のようにユラユラと飛び回る悪魔どもには刀剣ではもう攻撃が届かない。
では撃ち落とすまでだ。
「ギャグゥ!」
俺が投擲した短刀が悪魔の翼を切り裂いて、飛行のバランスを喪失した1体がフラフラと墜落してくる。
よし、鳥ほどの速さで飛ばれたら厳しいが、こいつらの飛行スピードなら何とかなるぞ。
俺が墜落する悪魔を仕留めるべく落下地点に駆け寄ると、その隙に俺の背後を狙う急降下の気配が2つ。
むしろそっちを待っていたぞ。
「しぃあ!」
振り向きざまに小太刀を走らせ、悪魔の首を2つ同時に刎ね飛ばした。
と同時に、左手に振り出した棒手裏剣を遊撃の位置取りにいるもう一体の悪魔に投げつける。
「ゲ!?」
自分に攻撃が向かうことを予期していなかったのか、悪魔は回避行動もとらずに眉間を穿たれて塵と消えた。
俺は地面で身をすくめる最後の一体に歩み寄り、喉を突いて戦闘を終わらせる。
…大した手応えの無いやつらだったな。
いや、それでも飛行するタイプの魔物がいるということは看過できない問題だ。
これは投擲戦法もバージョンアップを…、おっと。
位階上昇だ。
身体の奥底から力が湧き上がる感覚。
日々の戦闘と瞑想でこのエネルギーについての理解を深めるにつれ、分かって来たことがある。
丹田というべきか、チャクラというべきか、とにかく俺の気力の源。
車のエンジンに例えるならば、その排気量が位階上昇により1割方拡張されている。
このエネルギーが全身の細胞を満たし、種々の身体出力向上を実現しているのだ。
たしかに、そう理解しなければ間尺が合わない。
今回が通算7度目の位階上昇であり、1割ずつ身体出力が向上しているとなると、のべ95%もの上昇である。
つまり、ほとんど元の倍の性能となるのだ。
筋肉等が生体的に強化されているのであれば、これはおかしい。
筋力は筋繊維の断面積に比例するのであり、このことに個人差はほとんど存在しない。
従って、約2倍の筋力が発揮されるならば約2倍の筋繊維断面積が必要である。
しかるに、俺の腕の力こぶがそれほど一気に増大したかと言うと、もちろん違う。
そもそも人間の筋肉量が増大するには、トレーニングと栄養摂取による循環が少なく見積もっても2~3か月必要なのだ。
…いやまあ長々と考え込んだが、要するにこの世界における鍛錬とは、身体の基礎能力を向上させることに加えて、体の隅々まで行き渡るこのエネルギーを使い熟すこと、その両輪で成り立っているわけである。
今回の位階上昇分の身体能力向上は、事前に変化量を見込んでイメージトレーニングを重ねているので問題ない。
軽く慣らしの運動をおこない、次の戦闘に向かうとしよう。
いや、その前に部屋の隅に宝箱が出現していた。
これを処理しようか。
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