第45話 甲冑
装備のカスタマイズを終えた俺は、籠っていた一室の扉を開き迷宮の廊下に出た。
内部の金属パーツを交換した綿襖甲の具合は良く、実に動きやすいぞ。
さっそく実戦での慣らしをするために俺は魔物の気配を求めて探索を行う。
すぐに発見できた気配は曲がり角の先、俺は迷宮の闇に隠れながら標的を目視できる位置まで身を進める。
…む、これは。
どう判断したものか。
曲がり角の先にいるのは全身を西洋甲冑に包んだ一人の重戦士、あるいは西洋騎士のステレオタイプとも合致する姿だ。
一枚胴の鎧にマントを羽織り、頭部はバケツを逆さにしたようなヘルムで覆われており、十字の切れ込みから視界を確保している様子。
手には凧のように巨大な金属盾と長剣を備えている。
うーん、困ったぞ。
ヘルムに隠されて眼が見えないので、迷人かどうかの判断がつかない。
こんな迷宮の奥地を一人で徘徊しているのだから、まず迷人だろうとは思うのだが…。
いや、これは俺が言えたことではないか。
仕方ない。奇襲は諦めるか。
万が一ということがあってはマズいからな。
「おい。あんたは迷人か、それとも探索者か?」
暗がりから姿を現した俺がそう声をかけると、甲冑姿はこちらに向き直って無言で剣を掲げた。
これは、やるということでいいのかな?
…願っても無いことだ。
俺も両手に得物を構えて腰を落とし、慎重に間合いを測りながらジリジリと距離を詰めていく。
間近で見た推定迷人の甲冑は、おそらく膝や肘の裏、脇などの関節部を除き、全身が鋼で覆われているようだ。
ヘルムの下部は鎧の襟に隠されていて、首筋にも全く防御の疎漏は無い。
こりゃあ、本来は刀で対峙するべき相手じゃないな。
槌や金砕棒があれば良かったんだが、無いものは仕方ない。
迷人は凧のように巨大な盾を押し立てて半身の姿勢で進んで来る。
おかげで相手の上半身のほぼ全てと長剣の動きが見えないが、まあこれは盾を持つ側の常套戦術だろう。
一見、攻撃の出所も見えず良戦術なのだが、しかし実際にはある程度読める。
左手に盾を装備して半身に構えている以上、俺から見て盾よりもさらに右側から攻撃が繰り出されることはほとんど無いのだ。
この世界に来て最初は盾の存在を厄介に思ったのだが、慣れて来ると少なくとも1対1の闘いにおいて便利な武具にも思われなくなってきた。
まあこれも、仲間と隊列を組んで戦うなら違うのかも知れないが。
などと分析していると、にわかに迷人の気勢が揺らいで攻撃の兆しを伝えて来る。
その起こりに乗じて俺は一気に迷人の左側面に飛び込んだ。
すると迷人は攻撃方法を切り替え、身体ごと体当たりの勢いで盾を突き出してくる。
…まあ、そう来るよね。
俺は得物を放り捨て、両手で盾の縁を掴みつつ体当たりの勢いを利用して後方に転がる。
つんのめった迷人の股間を足で蹴り上げて巴に投げ飛ばし、一緒に回転しながら首のスプリングを効かせて跳ね起きる。
一連の動作が終わると、俺は仰向けに倒れた迷人に馬乗りになっていた。
もがく迷人の右手首を左手で押さえて長剣の動きを封じ、肘の下にすばやく右腕を送り込んで腕絡みに取る。
俺が体重をかけると、ベキリと音がして迷人の右腕が折れ曲がった。
迷人は必死に俺を振りほどこうとするが、すでに右腕が死に左腕も盾を固定しているため自由が効かない様子だ。
俺は腰の体重移動で迷人の動きを封じながら、ヘルムの留め金を外して面を開き念のため中身を確認する。
そこには敵愾心に燃える赤光の双眸があった。
やはり迷人で間違いないか。
よし。
「ギィ…ガ!」
袖から振り出した棒手裏剣を顔面の中央に突き立て、掌に体重をかけて押し込むと迷人はビクリと痙攣して大人しくなった。
…まあ相手が1人なら組打ちでどうとでもなるが、乱戦ではこうもいくまい。
全身鎧対策というのも、今後の課題としていこう。
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