第44話 良い鎧
お、これは鎧か。
オーガとウサギの群れとの大乱闘を終えた俺が、出現した宝箱の爆弾の罠を解除したところ、一領の金属鎧が中に納められていた。
こりゃ見るからに良さそうな鎧だ。
胸、鳩尾、脇腹などを守る金属片が細かいパーツに分かれていて、それぞれの動きしろが立体的に確保されているので可動性が高そうである。
見た目は西洋風なのだが、構造は日本の具足の小札威しに近しいものがあるな。
この世界に来て以来、多くの衛士や探索者の鎧を観察してきたが、その中で一般的なのはドラム缶のように身体を丸ごと覆う一枚板タイプだ。
それらの鎧は胴体全てを隙間なく防御できる構造であり、しかも一枚板なので衝撃への変形耐性も強く総合的な防御力は高いだろう。
しかし身体の捻転を一切反映できない鎧は、攻撃を重視する俺のスタイルに合わない。
その点、この鎧は胴体の可動性を維持しつつも、金属片による防御力は期待できそうだ。
しかもこの鎧には内包された魔法的なエネルギーを感じる。
おそらく以前に発見した良い盾も、あの時にはそれと気づけなかったが魔法的な付加効果があったに違いない。
あの盾には使用者の技量を超えた防御をアシストする性能があったし、おそらくこの鎧にも通常の金属鎧が発揮する防護性能を超える力がありそうだ。
しかし、では俺がこの鎧を着用するかというと、まあしない。
良い鎧だとは思うのだが、俺は静音性を主眼とした装備を重視しており、体表に金属パーツが露出していること自体が好ましくないのだ。
この鎧を着用して地面を這ったり、あるいは壁を登攀したりすると、金属パーツが迷宮の石畳や石壁に擦れ、ガリガリと騒音を引き起こすだろう。
だから綿襖甲を装備として採用しているというわけだ。
魔法の盾を地上に持ち帰った際に得られた換金額を考えると、この鎧を持ち帰ることも魅力的なのだが、いかんせん鎧をまるまる一領持ち歩くことは現実的ではない。
多少惜しい気もするがここに捨て置いて…、いや待てよ。
俺は金属鎧の小札を威している革紐を確かめる。
…うん、バラしてパーツを回収することができるな。
現在俺が装備している綿襖甲の、綿衣の裏側に縫いとめている鋼板をこれらのパーツに交換することが可能そうである。
ちょうど休憩を取ろうと考えていたところだしやってみるか。
俺は魔物の気配を感じない部屋を探しあて中に入ると、扉の持ち手環に閂代わりに太刀を挿し込んで封鎖した。
部屋の中の安全を入念に確かめた後に、腰袋をはずし腰帯を解いて綿襖甲を脱ぐ。
今回は腰袋の容量拡大に伴い各種の物品を持ち込んでいて、装備の破損に備えて縫い針や糸もある。
金属鎧の分解したパーツを縫い付ける作業も問題なく進められる。
ちなみに砥石も持ち込んでいるので武器を研ぐことも出来るが、あくまでも応急的な処置であって本職の研師に見せられる仕事ではない。
…美術的な価値も見込める古式刀を野研ぎでゴリゴリ摩耗させるなんて、現代日本の刀剣愛好家に見つかったら割とマジで激怒されそうだな。
無用な心配はさておき、綿襖甲の鋼板と交換を進めて見ると、これは本当にいいな。
魔法的な効果を抜きにしても、従来のほぼ平らな鋼板とは異なりこの鎧の小札威しは人体の曲線に合わせた形状をしている。
こりゃあ、文字通りに拾い物だったな。
ふと、なぜ仄暗い迷宮の奥地でちくちくと縫物をしているのか疑問が湧きそうになるが、雑念を追い出して作業に集中しよう。
パーツ交換の終わった綿襖甲を着込んで腰帯を締めると、実にしっくりと来る。
俺の身体の形に添って防御が為されているので、従来よりも動きやすくなっているくらいだ。
金属パーツが相互に接する部分には、補修用の予備の綿を噛ませているので静音性も問題無い。
そして金属パーツ同士が噛み合っているということは、身体に衝撃を受けた際に金属構造がその一部を肩代わりしてくれることを意味している。
つまり、従来は対刃・対刺突性しか無かった防御力に対衝撃性も加わったのだ。
元の鎧には股間を守る草摺りや太ももを守るグリーブ部分もあったが、俺の着ている綿襖甲はベスト状なのでこれらのパーツは装着できない。
これらは威しに分解して持ち帰り、地上でさらなる防具改修を検討しよう。
よしよし、さっそく試運転をしてみようじゃないか。
先ほどの大乱闘で消耗した体力も回復したので、実に有意義な休憩となったぞ。
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