第41話 そんな気もする
地下3階層の一角、俺は曲がり角に身を潜めて迷人集団の様子を窺う。
…いたぞ。
前衛は手練れの短剣迷人が4人、エリカによれば「盗賊」と呼ばれるタイプの迷人だ。
そして後衛はローブを着た迷人が1人、前回俺に恐るべき魔法を浴びせた「魔法使い」の迷人である。
俺は数多の魔物を塵に還しながら地下3階層を探し回り、ついに目的の敵を発見することができた。
前回よりも数が少ないのが不満だが、準備の成果を試してみよう。
俺は袖から棒手裏剣を引き抜くと両手に2本ずつ握り込む。
いつもは後衛の迷人から先に狙うが、今回はあえて「盗賊」を先に片付けよう。
「グ!?」
「ゲハ!?」
「アゲッ!」
奇襲から続けざまの投擲で「盗賊」を3人仕留める。
4人目はこちらに注視してしまっているので、もう投擲では斃せない。
それでも俺はけん制に棒手裏剣を投げつけながら、一気に迷宮を駆けて距離を詰める。
棒手裏剣を捌いて体勢を崩した「盗賊」の焦燥する表情が眼前に迫り、次の瞬間には小太刀の一閃で宙に刎ね飛んだ。
こいつらの技はもう見たからな。
邪魔者がいなくなった俺は「魔法使い」に視線を向ける。
やつは今、全速力で魔法エネルギーを充填しているところだ。
あと半分というところだろうか? 斃そうと思えば、いつでも斃すことができる。
しかし俺は動かない。
試したいことがあるからな。
さあ、撃って来い。
奇妙な緊迫に満たされた迷宮の一角に、「魔法使い」から立ち昇るエネルギーが渦巻く。
来るぞ。
「…!」
刹那、オレンジ色の火炎が俺を包む、かに見えた。
たしかに放たれた魔法エネルギーは、俺の五体に充満する反発エネルギーにぶつかるや否や、熱の残滓を残して幻の様に掻き消える。
あとには、呆然と立ち尽くす「魔法使い」と俺が向かい合うだけの、何事も無かったかのように静謐な迷宮があるだけだった。
俺は「魔法使い」に向けて無造作に歩み寄ると、すぽん、とその首を刎ねる。
付き合ってもらって悪かったな。
おかげで、地上で練りに練った戦闘シミュレーションと実践の細部を合一することができたぞ。
敵の魔法攻撃が襲い来るのを待って、いちいちその都度に気合を発して防御を図るのではない。
攻防において、いや起居の全てにおいてこの気組みを維持する鍛錬をしてきたのだ。
前回この身に浴びることで「魔法使い」の炎のエネルギーを量ることもできた。
後は、炎の直撃を受けても押し返せるだけの分量を五体に満たし続けるという寸法である。
俺は石畳に散らばる魔石を拾い集め、出現した宝箱の中からは硬貨や宝石、魔法の巻物を取得する。
そういえば前回もこいつらとの戦闘後には魔法の巻物を得たな。
もしかすると、魔物の組み合わせと戦利品との間に関連性があるのだろうか?
などと考えながらも、俺の足は自然とある方向へと向かっていく。
やがて目の前には、得も言われぬ芳香が漏れ出しているような、魅惑的に仄暗い下り階段が現れた。
…地下3階層はもういいだろう。
俺の準備してきた戦法は十分に通じたし、なによりこれ以上は我慢しがたい。
漏れ出してくる下層の空気を吸うだけでも、腰のあたりがそわそわとして堪らないんだ。
装備品の状態を入念に確認した俺は、いちど瞑目して、浮かれ騒ぐ己を戒める。
脳裏に浮かべるのは、救護室で俺の鼻をつまみ上げるエリカの言葉だ。
『…でもそういう人は、いつか必ず、迷宮から帰ってこなくなってしまうんですよ?』
…俺もそうなるだろうか。
もしこの迷宮が無限に続くならば、あるいはそうかも知れない。
行けるところまで行けばそれでよい、という気持ちも湧き上がって来る。
しかし…。
あの口喧しいエリカが、それでも俺が帰還すると嬉しそうにするのだから、もう少しの間くらいは喜ばせてやってもよい。
そんな気もする。
いつまでなのかは、約束できないが。
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