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【web版】現代忍者は万能ゆえに異世界迷宮を一人でどこまでも深く潜る  作者: 右近衛将監(左兵衛佐)


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第39話 鋼


「いらっしゃい、あんたは漂人の…、シュウだったね」


 ここは俺が以前にマジックバッグを購入した店だ。

 あの後、寺院での治療を受け熱傷の痕も奇麗になくなった俺は、装備品の更新のために店舗を巡っている。


「そうだ。マジックバッグを見せてくれるか」


「あんた、少し前に購入したばかりじゃないか?」


 店主は怪訝な表情をしているが、今まで使っていたマジックバッグの容量では満足がいかなくなってきたのだ。

 防具の修繕等に多少の費用が掛かるとはいえ、手持ちの資金の大部分はマジックバッグの更新に充てるつもりである。


「3倍の容量なら、いくらだ?」


 俺の計算では、そのくらいが要る。


「3倍だって!? おいおい、そりゃあ相当に値が張るよ。軍の発注以外だとベテランの探索者じゃないと手が出ないぜ?」


 俺は巾着袋から手持ち全ての銅貨と銀貨を取り出して机に並べ始める。

 呆気に取られてそれを眺めていた店主だが、途中で慌てて俺を静止した。


「待った、それ以上は要らないよ! 5000ドゥカートだ。いや驚いたね、あんたひと山当てたんだなぁ」


 店主は俺が取り出した硬貨の内から5000ドゥカートを選り分けると、残りを押し返してきた。

 どうやら予算は足りたようだな。


 俺はエリカから前回と前々回の戦利品の換金分を受けとっており、その金額は魔法の盾の3000ドゥカートを筆頭に合計5000ドゥカート超であった。


 これだけでも今回のマジックバッグの代金には足りるが、さらに今回の探索の魔石がおよそ2000ドゥカートの換金となった。

 使っていなかった分も含めると、手元にはまだ3000ドゥカート以上の現金が残っている。


 ちなみにドロテア婆さんの下宿料が晩飯付きで月に150ドゥカートなので、一度の迷宮探索で楽に数か月は暮らせそうである。

 どうにも物価感覚が狂いそうになるな、この世界は。


 まあエリカも言っていたが、これは俺が迷宮探索の成果をパーティで分配せずに一人で得ているからこその金回りだろう。

 これまでの成果を6人で頭割りしたなら、こうしてすぐにマジックバッグの更新とは行かなかった。


 店主が奥から持ち出してきた新品のマジックバッグを受け取り、さっそく背中に背負っていた太刀を納めてみる。


 よし、計算通りだ。

 太刀は鍔本までがバッグの中に納まり、バッグの縁からは柄が外に覗いている。


 これで静音性を維持したまま予備の太刀を持ち歩くことが出来るぞ。

 バッグは縦行だけでなく容量自体も拡張しているのだから、次の探索に向けてはより多くの装備品を選択肢に入れることができる。


 うーん、早く迷宮を探索したいが、鍛冶屋の仕事が終わるまでは身動きが取れん。

 もどかしいことだが…、地上でも出来ることはたくさんあると切り替えよう。





 翌日は早朝から身体トレーニングに励んでいた俺は、夕方になりやっとこの日の予定メニューを消化し終えていた。


 なにしろ位階上昇により馬鹿みたいに筋力・スタミナ共に向上しているため、自重の負荷に頼るようなトレーニングは限界に達するまでに時間がかかる。

 もっと効率的に負荷を高めるようなトレーニングを開発していかなければ。



「シュウ、ドタバタは終わったかい? って、なんだいあんた素っ裸じゃないか」


 井戸から釣瓶を引き上げて水浴びをしているところに、裏庭に面した勝手戸を開けてドロテア婆さんが顔をのぞかせた。


 いや、そりゃ水浴びをしてるんだから裸に決まってるだろ。

 今までもそうだったんだから…っと、来客なら最初にそう言えよ婆さん。


 ドロテア婆さんの後ろから姿を現した長身の女は見覚えがある。

 シーロたちのパーティの前衛剣士で、地下3階で毒を受けて倒れていたベリンダだ。


「シュウ。あんたのおかげで、アタシたちも無事に帰還できたんだ」


「ああ、礼には及ばん。相見互いのことだ」


 俺は井戸脇に掛けてあった貫頭衣を被ると、腰を縄で縛って一応の服装を整える。

 あの後、シーロから改めてエリカ経由で謝礼は受け取ったのだが、わざわざ挨拶にくるとは律儀なことだ。


「…いいもの見せてもらったよ。一人で地下3階層を探索する秘密は、その鋼みたいに鍛えた身体にあるんだね」


 俺の胸板や二の腕に視線を送りながら、ベリンダはよく分からんことを言う。

 なんだ、セクハラしに来たのかこいつは?


「まだまだだ、俺がボロボロにやられてたのは見ただろう。真に鍛えた鋼には、まだ程遠い」


 俺の言葉にベリンダは鼻白み、形の良い唇を結んでゴクリと喉を鳴らした。

 執念染みた俺のありように、この女も呆れているだろうか。


 まあ、他人から見れば頭がおかしいように見えるだろうが、そんなことは慣れっこだ。

 別に誰かに認めてもらいたいわけじゃない。


 ただ最も強い技、最も鋭い業をこの身に宿し、最も激しい闘いをしたいのだ。

 ただ、俺だけのために。


「おっかないね…。鋼の身体に、まるで炎みたいな心。それに…」


 にわかに空気が変わって、ベリンダの眼が怪しく光る。

 俺は思わず飛び退って彼我の間合いを確保した。


 なんだ…? まさか仕掛けて来るわけでもあるまい。


 俺は油断なくベリンダを観察しながら、あらゆる想定をして次の言葉を待つ。

 ベリンダの視線がゆっくりと下がって…。


「可愛い顔してさ、とってもワルそうな長剣だよ。おっかないね…フフフ」


 婆さん、警察だ。

 警察を呼んでくれ。




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