第31話 這いずる硬貨
さて、これまでの稼ぎはトレーニング器具にほとんど散財してしまったので、また稼ぎに行こう。
前回の探索で魔法の品と思しき盾を入手しているが、あれはまだエリカに預けたまま換金には至っていない。
あの盾にいい値段がついてくれれば、さらなるトレーニング環境の充実を目指せるぞ。
あんまり庭を埋め尽くしてドロテアの婆さんから叩き出されても困るが。
俺は自作の各種ポーションを腰袋に納めると、迷宮に向けて下宿を出発した。
ちなみに、解毒薬だけは婆さんが作ったものを持ち込む。
まだ自作ポーションでは婆さんの薬効に敵わない以上、効きませんでしたでは洒落にならないからな。
解毒薬だけは素直に婆さんのポーションに頼ることにしよう。
「お、シュウか。相変わらずハイペースだなお前は」
迷宮の入り口には相変わらず衛士のウーゴがいる。
むむ、今回は中2日を置いたのだがこれでもハイペース認定なのか。
「稼がなくてはならんからな」
「あんまりエリカを心配させるなよ。そうだ。ビオレータがお前の依頼品を仕入れたそうだぞ」
お、探索の帰りにビオレータの店に寄らなくては。
ビオレータはエリカとは幼いころからの友人らしく、エリカの好みを押さえた贈賄には欠かせないブレーンなのだ。
3日ぶりに足を踏み入れた迷宮の冷たい空気が、鼻孔を通じて肺を満たす。
地上の様々な雑念は周囲の静寂に溶けて、湧き上がる闘争心が俺の心を満たしていく。
いい感じだ。
体調も完璧に近いし、今日は地下3階層をくまなく探索してみよう。
地下3階層の敵はまだまだ俺に戦闘の緊張感をもたらしてくれるので、まずはこれに順応して克服することを直近の目標とするのだ。
もっと深い階層の空気を吸ってみたい欲望も湧き上がってくるのだが、焦ってはなるまい。
着実に、一歩ずつこの迷宮を踏破して行こう。
「ふっ!」
地下一階を通り抜けつつ、すれ違う犬頭の魔物の首を次々と刎ね飛ばしていく。
すぽんころん、すぽんころん、とテンポよく犬頭を転がしていくと、5匹いた魔物は数秒で全滅した。
以前は盾持ち対策の練習にもう少し丁寧に取り組んでいたのだが、今はもう最速で飛び込んで反応される前に首を刎ねるだけになってしまった。
実践練習という意味ではあまり意味がないので、ウォーミングアップしつつ地下1階層は最短距離を素通りしていく。
「はっ!」
俺の小太刀が銀閃を閃かせると首が宙に舞う。
地下2階層では忍者迷人8人の集団を相手にしている。
こいつらは相変わらず殺気を駄々漏らしているので、順に攻撃の起こりを潰していけば簡単に首が獲れる。
まあ、取り囲まれることさえ注意していれば問題ないな。
その後も特筆すべきことは無く、お馴染みのウサギの集団や鎖帷子の迷人集団、ローブを着た迷人や歩く腐乱死体などを斬り倒しながら地下3階層への階段を目指す。
と、快調に足を進めていると奇妙な物に出くわした。
石畳にばら撒かれた数十枚の金貨。
…いや、こんなの怪し過ぎるよね。
これまで迷宮内では宝箱以外の物品は見たことないのに、いきなりむき出しの金貨が転がっているなんて騙す気があるのか疑問ですらある。
さて、ベタな仕掛けなら金貨の周辺に罠があるんだろうが…。
いや違うな。この金貨自体が魔物だ。
奥の方のやつがカサリと動いたのが見えたぞ。
金貨の下から昆虫か甲殻類のような節足がのぞいて、どうやら金貨に擬態した甲虫かヤドカリのような魔物らしい。
俺は両手に得物を構えると、慎重に金貨の群れに近づく。
どういう攻撃パターンだろうか? 飛び掛かって来るか?
プシュッ、という音と共に吹き出された一筋の液体を、俺はサイドステップで躱す。
こりゃ、蟻酸のようなものか?
なんにせよ気を付けていれば大したスピードの攻撃ではない。
俺は液体を被らないように気を付けつつ、両手の得物で金貨の魔物を次々と断ち割っていった。
見た目には金属なのだが、斬りつけてみるとちょうど貝殻くらいの強度だな。
数が多いので多少時間はかかったが、危なげなく殲滅が完了した。
戦闘後に出現した宝箱の罠を解除し、開いてみるとそこには見慣れた硬貨が収まっている。
…こいつら、このタイミングで宝箱から出てくる戦略は取れないんだろうか?
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