第27話 半壊パーティ
撤退を決め地下2階層を移動中の俺は、前方に戦闘の気配を感知した。
自分以外の何者かが戦闘をしている場面に出くわすのは、俺がこの世界に来て初めての経験である。
さて、どうするか。
これまでの経験上、迷宮内で魔物同士が争っている様子は見たことがない。
とすると、この気配は探索者と魔物の戦闘と考えるのが妥当か。
迷宮内で他の探索者と遭遇することは避けてきたわけだが、他の探索者と魔物の戦闘に興味がないかと言うと、興味はある。
よし、ちょっと覗いていこう。
俺は気配を消して、戦闘が行われている方向にそっと接近を開始した。
「ちくしょう、アラリコもやられた!」
「俺は死にたくねえ…」
「おい、そっちいったぞ!」
うーん、余計な手出しはせずに戦闘の様子だけ盗み見させてもらう予定だったんだが。
これは明らかに、全滅の危機に瀕している探索者パーティを発見してしまったらしい。
鎖帷子を着込んだ迷人が10人以上で、3人の探索者を取り囲んでいる。
足元にはすでに倒れ伏した男が3人いて、まあ迷人なら塵に還るわけだから彼らも探索者なのだろう。
つまり6人構成の探索者たちの、すでにその半数が力尽きている状況という訳か。
生き残った3人は身を寄せ合って防戦一方といった様子である。
仕方ない、やるか。
「ギャ!?」
「ゲッ!?」
俺が投げた棒手裏剣が鎖帷子を着た迷人の延髄を貫通した。
迷人どもは探索者を包囲することに夢中なので、後ろからの攻撃には全く気付く様子が無い。
俺は次々と棒手裏剣を投擲し、手持ちの10本を投げ尽くして同数の迷人を仕留めた。
地上に戻ったら、もっと数を増やそうかな。
迷人の数が半減したあたりから探索者たちもこちらに気付き、生気を取り戻して応戦を始めている。
最後の1体となった迷人は、いつの間にか仲間が全滅している状況に混乱したのか、手にした曲刀をでたらめに振り回すだけとなった。
「みんなの仇だ、死ねぇ!」
探索者の男が振り下ろした手斧が迷人の脳天を捉え、一瞬内容物が吹き上がったかと思うと全てが塵となって消えた。
3人の男たちは戦闘の緊張と死の恐怖から解放されたためか、一様にその場に座り込んでしまった。
いや、本当にどうしよう?
見捨てるわけにもいかんから助太刀したが、いざ姿を晒してみるとどういうコミュニケーションをとったものか。
「助かったぜ、あんたは一人なのか? 仲間はやられちまったのか?」
「…いや、俺は最初から一人だ」
手斧の探索者の質問に俺が答えると、探索者たちは驚愕の表情をした。
まあエリカの様子からして、一人で迷宮探索を行うことは非常識な行いなんだろうということは自覚している。
「一人で2階層探索とは、すげえな…。いや、なんにしても助かったぜ」
「なあ、あんた。治癒薬は持ってないか?」
今度は長剣を下げた男が俺に治癒薬を求めてきた。
まあ、自作の治癒薬ならあと1本あるな。
「効き目は保証しないが、1本でよければ譲ろう」
「ありがてえ! これで血止めができりゃあ、なんとか地上に帰れる」
なるほど彼らを観察してみると、3人とも大小の手傷を負っているが、中でも長剣の男は太ももから夥しい出血をしている。
血止めをしないことには、移動もおぼつかないだろう。
瓶の封を切って中身を一気に呷った長剣の男は、全身の傷が塞がって小康を得たようだ。
「すげえ効き目じゃねえか、こりゃいいポーションだぜ」
「地上に戻ったら、この対価も必ず払うぜ」
まあ、喜んでもらえて良かった。
それじゃあそろそろ俺はこれで。
「あ、なあ。もしかしてあんたも地上を目指してるのか?」
俺が立ち去ろうかと思ったところで3人目の探索者、軽装で短剣を備えた男が呼び止めてきた。
まあそうか、残り1本の治癒薬を譲ったのだからその足で帰還しようとしていることは推測できる。
「だったらよ、地上まででいいから俺たちと組んでくれねえか? 見ての通り、俺たちはパーティが半壊しちまったんだ」
「頼む! あんたみてえな手練れが一緒なら心強い」
3人はすがるように俺を見つめてくる。
うーん、確かに帰還するところだしな。
これも乗りかかった船か。
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