第26話 良い盾
「キシャアアア!」
俺に躍りかかって来た巨大なアシダカグモの牙を躱し、胴側の脚を小太刀で斬り飛ばす。
すでに両側の脚を4本も斬られている巨大クモはさすがに動きが鈍くなってきた。
おっと。
攻撃を察知して身体を仰け反らせた俺の鼻先を、ブォンと低音を響かせてボーリングの球のような物体が通過する。
こいつも虫の魔物だ。
直径40cmほどの球体の身体をもつ甲虫が弾丸のように飛来してくるので、直撃を受ければ痛そうだ。
今はこのクモとボーリング球の、2種類の魔物と戦闘中である。
俺の隙をついて別のクモの魔物が牙を向けてくるが、俺はその眼が多数並ぶ顔面の中央に短剣を突き立てて捻り込んだ。
飛翔するボーリング球もやっかいといえばやっかいなのだが、このクモの牙にはクラスの感覚が働いてうなじがチリつく。
おそらく毒があるだろうから、クモを優先して対処しよう。
クモは最初6匹いたが、たった今1匹仕留めたのであと5匹。
ボーリング球甲虫は飛び回っていてよく分からんが、7~8匹だろう。
クモの魔物がシャカシャカと素早く脚を動かして、迷宮の石壁を登攀して俺に躍りかかるチャンスを窺っている。
この3D戦術もやっかいだし、そもそもこいつ等は異常に動きが速い。
人間サイズを超える大きさに引き伸ばされた虫というのは、パワーといいスピードといい洒落にならない凶悪さなのだ。
予備動作なく一瞬でトップスピードに乗せてくるので、人間や獣と闘うのとは別次元の戦闘感覚である。
しかし、そろそろ弱点も分かって来た。
俺は小太刀の切っ先をクモの魔物に向け、突撃を受け止める。
「キィ!?」
狙い通りクモの魔物を頭から串刺しにすると、塵となって消え去った。
こいつらは動きの速さは驚異的なのだが、素直というか直線の攻撃パターンしか持たないのだ。
緩急やリズムの変化も存在せず、常にトップスピードで淡々と突撃してくる。
なので、どれほど速くてもその瞬間に切っ先を合わせれば終わりである。
捌き方に慣れてきた俺はクモの突撃に短刀の切っ先を向けながら、飛来するボーリング球を小太刀で叩き斬る。
パカッと二つに分かれたボーリング球は左右それぞれに石畳を転がった後、塵と化した。
興味深い戦闘体験で面白かったが、あとは消化試合だな。
むっ。
戦闘を終えた俺の身体の奥底から、位階上昇の力が湧き上がる。
これで通算5度目、現在俺は第6位階ということになる。
そういえば、位階そのものの説明は受けたがいくつくらいの位階で初心者卒業なのかは知らない。
こんど地上に戻ったら、エリカに聞いてみるか。
宝箱の中からは、いつもの硬貨の他に盾が出てきた。
全金属製の美しい丸盾で、縁には鋲がびっしりと並んでいる。
これまでも宝箱から武具が出現することはあったのだが、いずれも状態は悪くないものの嵩張るので捨て置いてきた。
宝石や貴金属の方が、嵩に対して換金性がいいだろうしな。
しかしこの盾は、これまでの物より明らかに質がいいぞ。
手に取って構えてみると、ぴったりと腕に吸い付くようにフィットしてとても扱いやすい。いやそれ以上だ。
極論、盾というのは木か金属の板なわけで、瑕疵なく作られていればそれ以上の性能も何もない。
しかし、この盾は何らかの力で、それ以上の性能が引き出されている。
まあ、魔法がある世界なんだから魔法だろうか?
おそらくこの盾を装備していれば、本人の技量を超えて巧みな防御行動を実現できるに違いない。
…うんまあ、いい物だとしても俺は盾を使わないんだけどね。
前にも説明した通り、俺は一人で闘う関係で攻撃の手数重視である。
どれだけ巧みに防御したところで、敵の数を減らさないことにはジリ貧に陥るのだ。
それでもこの盾は換金性がありそうだ。
腰袋に押し込むと、容量が限界で半分近くが露出したままになってしまった。
うーん、体力的にはまだいけるんだが、これ以上戦利品を持てないのでそろそろ撤退するか。
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