第28話 生還
半壊パーティの男たちは、手斧の戦士がブラス、長剣の戦士がベニート、斥候がセルヒオと名乗った。
彼らは石畳に倒れ伏せた仲間から遺髪を切り取り、腰袋などの所持品を回収した後、帰還の準備が整ったことを伝えてきた。
この世界でも遺髪を偲ぶ文化があるんだな。
急造の4人パーティとなった俺たちは、セルヒオを先頭に慎重な索敵を行いながら地上を目指す。
…目指すのはいいんだが、セルヒオは敵の気配をあまり上手く察知できていないように見えるな。
最後尾についている俺の方がずっと早く敵を察知するし、セルヒオが気付かないまま偶然に遭遇を回避しているケースも見られる。
たびたび俺の気配を察知していたアニタとか言う女斥候は、ひょっとするとかなりの手練れなのかも知れん。
…む、挟まれたなこりゃ。
もっと早く口出しすれば防げる事態だったが、他の探索者の行動を観察したい興味が上回ってしまった。
「セルヒオ、前後とも魔物の気配だ」
「え…? あ、そう言われると、前は気配がするな。後ろはよく分からねえが」
俺が指摘するとセルヒオにも前方の気配は感じられたらしい。
隊列の関係で前方の方が察知しやすいのだろう。
「マジかよ、もう戦闘は避けたかったんだがな」
「一本道だぜ。生きて帰るには、前の魔物をやるしかねえ」
ブラスとベニートもそれぞれの得物を構えて戦闘準備に入っている。
死闘を決意したかのような彼らの表情は大げさにも見えるが、パーティ半壊かつ満身創痍の状況からすると、本当にそういう心境なのだろう。
やがて前方から姿を現したのは、みすぼらしい短衣を着た短剣男5人と聖職者の格好をした男4人の、いつもの迷人集団の構成だった。
「や、やるぞ! 俺は生き残ってやる!」
ブラスが気合を込めて手斧と丸盾を掲げたとき、ヒュンヒュンと風切り音を残して棒手裏剣が飛ぶ。
「ガッ!?」
「エゥ!?」
左右交互に2セットずつ投擲すると、迷人の後衛である聖職者風の男は全滅した。
魔法を使われると面倒なので、この構成と闘う場合は先に後衛を潰すのが俺の中で定石と化している。
ポカンとした表情で立ち尽くしているブラスたちを置いて隊列を飛び出した俺は、残りの短剣迷人どもを次々と斬り伏せていく。
そうして、あっという間に戦闘は終わった。
「後方からも魔物が迫っている。早くここから離れよう。」
「あ、ああ…」
俺は投擲した棒手裏剣と魔石を拾い終わると、まだ固まっているブラスたちを急かして地上を目指した。
「やった…、地上だ」
「戻って来たんだな…」
地上から降り注ぐ日光を浴びながら、俺たちは階段を踏みしめている。
俺としてはもっとゆっくり登って目を慣らしたいのだが、ブラスたちは一刻も早く地上に戻りたいようで駆け足気味だ。
まあ、彼らが死地から生還したことを思うと仕方ないところか。
地上が近づくと、衛士のウーゴが慌てる声が聞こえてきた。
「おい、ブラスじゃねえか。アラリコやビダルはどうした!?」
「ウーゴ…。やられちまったよ、デシもだ」
ブラスは沈鬱な面持ちで仲間の犠牲を報告している。
驚愕したウーゴは応援を呼び寄せると、満身創痍のブラスたちを担架に乗せて救護所に運び始めた。
俺も担架に乗せられそうになったが、ピンピンしている旨をアピールしてなんとか免れた。
「シュウ、聞いたぞ。お前がブラスたちを救助したそうだな。よくやった!」
救護室から戻って来たウーゴが俺の肩をバシバシと叩く。
距離感が近くて戸惑うが、まあ喜ばれるのも悪くない。
「シュウ。お前もこれを機に、パーティを組んだらどうだ。迷宮の危険はよく分かっただろう?」
「いや、俺は一人がいいんだ」
「はー、そうかい。無茶するんじゃねえぞ」
溜息を吐くウーゴと別れ、俺は表通りに向かった。
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