第151話 四翼の魔神
さて、5つ目の部屋を攻略した俺は転移空間をくぐり、今度はU字型に曲がりくねる一本道を歩んでいる。
次の部屋の扉はまだ見えていないが、しかしもうすでに尋常ではない魔力の波動を感じるぞ。
この気配の種類は悪魔だな。
牡山羊の悪魔や蒼鱗の悪魔どもと似た系統ではあるのだが…しかし、これはなんというか。
これまでの悪魔どものように分かりやすく禍々しいというよりも、純粋な力強さを感じると言うか…むしろ荒ぶる神性とでも表現すべきか。
俺の感性からすると神と悪魔の区別は曖昧であるしな。
俺の生まれた世界では怨霊であっても社を建てて神と祀るのだから、超越的であるならば同じことかもしれない。
…まあ、つまりは。
神であれ悪魔であれ、斬れるならば斬るのみだ。
いよいよ扉が見えてくると、意識しなくとも魔力像がハッキリと見えた。
その巨大な肉体からは長大な手足が伸びていて、背中には四枚の翼がX字に広がっている。
迦楼羅天にも似た容貌に無限の魔力を放つ赫眼が備わっていて…ふむ、お供には毒巨人が4体と人魂1体を連れているか。
うーん、人魂にまた位階を上げられると足止めを喰うのだが…。
まあ一体だけならば平気かな…?
例によってお互いに存在は秘匿できないので、真正面からの戦闘ということになりそうだ。
6枚の手裏剣たちがそれぞれにタップリと俺の魔力を取り込んで、周囲にクルクルと遊弋し始める。
俺は三日月の太刀を手に取り、深く息を吐いて心を落ち着けた。
…いくぞ。
迷宮の扉を蹴り開けると、眩い閃光が迸って甚大な衝撃が迷宮を揺るがした。
…まるで巨大な爆弾が炸裂したようなあり様だな。
四翼の魔神が生み出した熱爆発の魔法で、お供の毒巨人は全て消し飛んでしまっている。
俺の前方に六角形の陣形を組んで魔力の盾を形成していた手裏剣たちは、それで魔力を使い果たしたので懐に呼び戻しておく。
よくやったぞ、お前たちのおかげで俺の正面は無事だ。
迷宮の壁に当たった熱線の輻射で背中はジリジリとしているが、それも鎖帷子がよく防いでくれた。
「シュルル…」
無限の魔力眼を向ける四翼の魔神に対して、俺は三日月の太刀にありったけの魔力を込めて掲げる。
さあ、貴様の荒ぶりを鎮めてやるぞ…!
「…りぃああああ!」
「シュアアア!」
太刀を担いで駆け込んだ俺を巨大な鉤爪が迎撃する。
俺は跳んで躱しざまに三日月を振り落とすが…ちっ、猛烈な魔力の障壁に阻まれて深手には至らない。
「シュアアァ! シュオオオォ!」
左右の鉤爪が嵐のように襲い来るのをすんでに躱しているが、まるで迷宮の一室に台風が上陸したかのような風圧でまともに立っていることも覚束ない。
…これはヤツの両腕の振りが生み出す風だけではあるまい。
どういうわけかヤツの背後からは常に暴風が吹きつけて来ていて、なるほど風神の類だったというわけか。
恐るべき強さだが…。
斬れるからには勝てる。
「ちぃりああ!」
「シュウウ…!」
胴体の攻略をいったん諦めた俺は、襲い来る鉤爪を一本また一本と斬り飛ばしていく。
凄まじい威力の攻撃ではあるが、ヤツは尾を備えていないのでこうして四肢に集中していれば不覚を取ることも…おっと。
つい先ほど斬り飛ばしたヤツの指の切り口から、みるみる内に肉が盛り上がって鉤爪が再生している。
…なるほど、こりゃ長丁場になるかも知れんな。
まあ、ヤツがどれほどのエネルギーをその身に宿しているのかは分からんが、それが尽きるまで繰り返してやる。
「…シュオオオ」
む…!
四翼の魔神は赫眼を煌めかせて、その身から膨大な魔力を立ち昇らせる。
また熱爆発の魔法だな…?
俺も全身に魔力を漲らせて防御の態勢を固める。
たぶん今の俺であっても、あの爆発を無防備に喰らっては無事では済むまい。
「カッッ!!」
果たして、再びの大爆発が巻き起こった…俺の背後で。
「んなっ!?」
降り注ぐ熱線に背中を焦がされながら、予想外の方向からの衝撃で俺は大きく前方につんのめる。
しまった…!
「シュアアアア!!」
バランスを崩した俺をさらに暴風が抑えつけ、そこに巨大な鉤爪が横薙ぎに襲い掛かって、馬鹿げた威力の衝突が俺を迷宮の石壁まで一直線に弾き飛ばした。
「うぐっ…!」
…やられたぜ。
熱爆発の魔法は、俺の行動を封じることが目的だったか。
なんとか鉤爪の斬撃は三日月の太刀で受け止めたが、衝突の威力そのもので右腕を砕かれ石壁との激突で左足がイカレてしまった。
右腕は橈骨尺骨ともにへし折られ、上腕骨もひびが入ったか…?
左足は大腿骨と…くそ、座骨と腸骨も左側はダメだ。
…いや、それよりも。
鉤爪を受けた瞬間に俺の全身に魔力毒が流し込まれ、それ自体は俺の体内魔力で防いだのだが…。
どうやら、俺の身体の芯からエネルギーそのものをヤツに引っこ抜かれたらしい。
さきほどまで全身にみなぎっていた力が明らかに目減りしていて、これはまるで位階上昇とは逆のプロセスが起きたかのようだ。
「シュ…シュ…」
無限の魔力眼をますますギラつかせた四翼の魔神が、俺にトドメを刺そうと迫る。
俺は砕けた四肢の骨を剛力で締め付け、体重を支えるバランスを体表に移すことで疑似的な外骨格の要領で無理矢理立ち上がった。
…さあ、後半戦だ。
つづく
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