第149話 妖刀
数時間の鍛錬を終えた俺はようやく身体の感覚を馴染ませることが出来た。
まだ気を抜くと魔力が漏れ出してしまうが…、これ以上は闘いの中で最終調整としよう。
先ほどの人魂狩りの影響で上昇した位階がいくつなのかは…よく分からない。
一つずつ上昇してくれないことには、ただでさえよく分からない現象なのになおさらよく分からないのだ。
おそらくは元の身体能力に対して数倍の出力になっていると思われるが…。
まあ、これまでの計算に関しても正直概算と言うか、あくまでも目安として来たに過ぎないしな。
そもそも、計算の元になる俺の身体能力が以前と同じであるかも分からないのだ。
…うん。
結論としては本当によく分からない。
こんなの真面目に考察していられないので、ともかく次の部屋を目指して行こう。
転移空間を抜けて曲がりくねった通路を歩むと、当然また扉が見える。
ふむ、蒼鱗の悪魔だな。
扉に近づくまでもなく、一見しただけで魔力の形が見て取れる。
こりゃ魔力視の感度も相当に上がっているな…これも調整して魔力に目が眩んで不覚を取らないようにしなくては。
俺は扉を開けてスタスタと室内に踏み入る。
ギョッとした様子の蒼鱗の悪魔は一体で、俺の姿を見るなり慌てて周囲に魔力の虚を生み出し始めた。
うーん、今さらコイツに時間をかけるのもどうかと思ったが、しかし身体感覚の調整を済ませたいのでお願いしてみるか。
蒼鱗の悪魔が生み出した魔力の虚からは同じく蒼い角が見えて…、現れた2体目の蒼鱗の悪魔がこちらを見て虚に戻ろうとするのを1体目の悪魔が必死にしがみついて留めている。
…そうか、もうしばらく放っておけばコイツらは増えるんじゃないか?
俺は腰帯に手をかけながら蒼鱗の悪魔の様子を見守っている。
2体に増えた悪魔は何やら揉めていたが、それも収まると大急ぎで魔力の虚を増やし始める。
2体が4体になり、ちょっと揉めた後に8体に…いや、1体逃げたか。
チラチラとコチラを見ながら増援を呼び込むことに躍起になっている悪魔ども、しかし全部で…えーと、16体か。
これ以上は魔力の虚を生み出しても、増援の角が覗きもしなくなってしまった。
よし、もういいだろう。
俺が腰の得物を引き抜くと、周囲には6枚の手裏剣たちが俺の魔力を帯びて遊弋し始める。
…この闘い方もさっそく試してみよう。
「グ…グオオオオオ!」
「ギョアアアアアア!」
「ギヒィィィイイイ!」
ついに意を決した悪魔どもがこちらに向き直って、一斉に猛炎や氷雪の魔法を繰り出してくる。
…いや、こんな子供だましに対して、今さらどう脅威を感じていいのかもよく分からんな。
それらの攻撃魔法は、特段気合を込めるまでもなく俺の魔力に散らされて霧散していく。
「…グォ?」
呆然と立ち尽くす蒼鱗の悪魔ども。
もっと緊張感を持ってほしいところだが…まあ、いいか。
星が煌めいて、剣閃が音を置き去りにする。
飛び回る手裏剣たちがそれぞれ2体の悪魔の首級を挙げ、俺の左右の刀が4体の悪魔を胴斬りに上下に分断していた。
数秒の静寂の後に、ぶわっと一斉に塵が舞って悪魔どもは消え去る。
ふーむ、やはり俺が投擲しないと手裏剣たちは初速が出ないな。
直接投擲していればそれぞれもっと首級を挙げられただろうが…、しかしその分だけ俺の動き出しが遅れてしまうので良し悪しというところか。
腕の力に頼らない、純魔力による撃ち出しというものをもっと鍛錬しないとな。
さて、宝箱の中身…以前に、見ただけで罠の種類まで分かるようになってしまった。
これもクラスの恩恵なんだろうが、技術が鈍ってはマズいので自身の指先でもしっかり罠を探っていこう。
えーと、鍵穴に接続された魔石にある種の魔法が込められていて…。
これは俺の頭に載る緊箍児や転移空間とよく似た魔力の種類で…つまりは俺をどこかに転移させてしまおうという罠か。
興味深い罠ではあるが直接の致死性を持つわけではないんだな。
…いや、転移先の情景を覗き見ると…これは、真っ暗闇?
まるで空気すら存在しないかのような…いやいや、空間そのものが存在していないな。
こりゃ、もしかして迷宮の石壁の内部ではなかろうか。
うーん、直接の致死性を持たないと判断したのは前言撤回である。
何にしても鍵そのものが代わり映えしないので、罠がどれほど悪辣でも意味が無いんだけどな…。
あ、あれ…?
宝箱から出現したのは一振りの打刀だったのだが…、さっそく刃を検めようにも鞘から抜くことが出来ない。
これはもしかして…、以前に得た黒い長剣のようにクラスの制限かあるいは人格か、何らかの理由で俺には扱えない武器なのか…?
そんな…!
せっかく、これまでで初めて宝箱から刀が出現してワクワクしていたのに…!
ぐむむ…。
刀身を確認できないのは無念極まりないが…しかし拵えの見事さからして、さだめし名刀に違いない。
しかも、鞘に納められたはずの刀身からはその冷え渡る様子がここまで伝わって来るかのようで。
呪いの魔力を感じないにも関わらず…こりゃ、妖気とでも言うべき気配を感じられるぞ。
すなわち、妖刀か…。
ぐむむむむむぅぅぅ…!
俺も使ってみたいのにいいい…!
臍を噛む思いに震える俺だったが、腰の粟田口から宥められてようやく落ち着きを取り戻す。
…まあ、使えないものは仕方ない。
公方様から授かった宝剣を持ちながら、これ以上は強欲というものだろう。
さてこの刀は持ち帰るとしよう。
俺には無理でも秋山どのなら使えるだろうか?
いや…この妖気はただ事ではないから、楓どのに預けて社に奉納してしまおうかな。
うんまあ、社の主は秋山どのなので結局同じことではあるのだが。
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