第146話 亡者
さて、地下10階層の一つ目の部屋に挑戦する。
この階層は一本道の通路と突き当りの部屋で構成され、その部屋では強力な魔物が待ち受けているという実に俺向きの素敵階層である。
全部で幾つの部屋があるかは分からないが、前回は二つ目の部屋まで行けたので少なくともそれよりも先に進みたいぞ。
それでまずは一つ目の部屋なのだが…、これはいわゆる不死の系統の魔物だな。
実のところこのタイプの魔物は苦手である。
不死といっても不死身ではなく切り刻めば塵になるのだが、亡者や死霊の類をこの世界では不死と呼び習わしているのだ。
しかし、どうもな…。
首を刎ねても動きが止まらず、神経や血管を断ってもさしたる痛痒を見せない相手というのは…つまらん。
要するに少々動く据え物斬りをするような感覚になってしまうというか。
まあ要するに、つまらんのだ。
8体と数も多いので手裏剣たちもそろそろ働かせてやるか。
俺は懐の革袋から手の内に手裏剣たちを呼び出す。
ちなみに、手裏剣たちは普段は硬い皮革製の薄袋に収めている。
使用するときは念じれば手の中に転移して来るので、普通の武器のように取り出しやすさを考慮する必要が無いからな。
これはヴィクトルが持つ「庚」「辛」も同じようにさせていて、転んだときに懐で刺さらないようにしている訳である。
さて、手裏剣どもに魔力を注いで…あれ?
妙に魔力の通りが悪いと言うか、こいつらも不死の魔物相手にやる気が低いじゃないか…。
こらっ! 武器が敵を斃すのにやる気もクソもあるか…!
しぶしぶという態度で俺の魔力を受け入れていく手裏剣たちだが、まあどうせ投擲したらしたで浮かれて敵に向かって行くだろう。
扉を蹴破った俺は両手を振り抜く。
案の定、生き生きと飛翔していく手裏剣たちと並走しながら、俺は両手に得物を引き抜きつつ魔物の正体を見極めていた。
一見すると青白い血色の人間。
しかし呼吸も拍動もないその肉体はやはり亡者のそれであろう。
打刀で袈裟に斬りつけると、あっさり両断される。
…強くはないな。
手裏剣たちも次々と着弾するが…ちっ、6枚ともが亡者の首を刎ね飛ばしている。
どうだ! と言わんばかりの気色が伝わって来るが、それでは非効率なんだ。
「URYYYYYYY!!」
俺の予想通り、頭部を失った亡者も含めて襲い掛かって来た。
袈裟斬りに斜めに切り倒した個体ですら、よたよたと歩んで来る下半身に加えて上半身も這いずりながら接近してくるな。
俺は油断なく構えていたので、接近してくる首なし亡者を近い順に迎撃していく。
手裏剣たちはギョッとしているが、これは想定内だ。
不死のタイプの魔物に急所は存在しない以上、ひたすら細切れにしていくしかないのである。
俺は袈裟に胴斬りに真っ向に右薙ぎに左薙ぎに逆薙ぎに剣閃を走らせ、バラバラに引き裂いた亡者にも20cm辺を超える大きさのブロックには念入りにもう一太刀くれておく。
「GY…Y…」
石畳に転がる頭部も血のような眼を見開いて呻きかけてくる。
長大な犬歯が見えるので、アレに噛みつかれていれば多少の怪我はあったのかも知れないな。
俺は片っ端から亡者の首を蹴り飛ばして、石壁に衝突させて四散させていく。
そうする内に細切れの肉片も次々と塵に化していって、どうやらこれでやっと終わりらしい。
さて…と、ふふふ。
手の中に手裏剣たちを戻してみると、なにやらしょげた様子だ。
まあそういうこともあるさ、戦闘経験を積むことでより良い判断を養っていけばいい。
次はお前たちに優先的に闘わせてやるから、上手い事やってみろ。
俺は手裏剣たちが威勢を取り戻す気配を感じた。
さあ、次の部屋だ。
…前言撤回なんだが、ここは俺だけにやらせてくれないか?
俺はギャンギャンと喚く手裏剣たちを抑えるのに四苦八苦している。
馬鹿…、騒ぐと露見するだろうが…!
いや、扉の向こうの相手は最初からこちらを察知しているな…。
気配だけでも分かるその恐るべき手練れは、身じろぎの音どころか魔力の欠片すらも漏らして来ない。
一筋の髪の毛ほどの重さも感じさせないその迷人は…これまで出会った中で最強のニンジャ迷人だろう。
…部屋の中には必ず魔物がいるという前提が無ければ、あるいは俺も発見に至らなかったかもしれない。
これほどの強敵を相手に出来るのだから…。
しかも、これは忍者と忍者の闘いなのだから…。
だからお前らはいい加減に静かにしろ…!
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