第141話 巫女
…これは、マントか。
手裏剣たちに旗本侍迷人を横取りされた後、出現した宝箱を開錠すると中からは純白に金刺繍が美々しいマントが出現した。
ふむ、これは宝飾品の枠では無くて装備品だな。
その証拠に、最上級のマジックアイテムを示す魔力の充実を感じる。
しかもこれは…俺には装備の効果が表れないタイプのマジックアイテムだろう。
ときおりそうした装備があり、どうやらクラスとの相性によって効果を示さない物があるとは聞いている。
ああ、クラス以外にも以前に拾得した黒い剣もそうだったように、人格に影響される装備もあるらしい。
ふーむ、家の誰かが装備して効果あるだろうか?
実験してみて誰にも適合しなかったら王家に売却でいいか…いや。
マントから漏れ出すこの気配…これはついさっき対戦した「君侯」迷人とよく似ているじゃないか。
となるとボドワンだな。
あいつの長身にこのマントはよく映えそうだ。
ボドワンに土産ができたとなると他のメンバーへの土産も欲しいところだが…おっ、そうか。
俺は手裏剣どもの殺到を受けて力尽きた旗本侍迷人が残した鎧兜を検める。
ふむ、これは当世具足…いや、当世と言ってももちろん現代ではなくて、当時にあっての当世なのだが。
銃弾に対する護板も威しの随所に仕込まれているので、これは戦国末期ないしはもしかすると江戸期の甲冑かも知れんな。
さすが旗本侍だけあって立派な造りである。
さしずめ江戸期においては番方上役につくような旗本家、それも家禄だけで1000石はありそうな大身の旗本家に伝わる家宝だろう。
いや、家宝と言っても後にそうなるという話で、これは造られてからそう年月が経っていなさそうだが。
俺はこうした甲冑を身に纏うことが無いのでこれまで捨て置いてきたが、秋山どのへの土産と考えるとよいのではなかろうか?
大和の秋山と言えば、神人などといいながら自力で勢力を拡大した国人に近しい存在だ。
きっと秋山どのも合戦に出た経験があるんじゃないだろうか。
そうでなくとも鎧兜を扱う嗜みは身に着けているだろうし、ともかく大荷物だがこれも持ち帰ってみるか。
大身の槍も良い品だが、槍は使うかな?
まあこれも持ち帰ってみよう。
俺はマジックバッグの口を開いて兜の錣を抑えて窄めながら収め、絲をほどいてバラした鎧の胴板を収める。
背板、草摺、佩楯、大袖、垂も喉輪も収めていき、籠手も脛当も収めると…あれ、鎧一領がスッポリ入ったぞ?
次に2m半はある槍をスルスルと収めていくと…これも入るか。
現在使っているマジックバッグは迷宮内で拾ったものだが、そういえばこれを使い始めてから入りきらなかった試しがないな…?
…あれ、見た目の大きさに対して6倍を超えるようなマジックバッグは地上の技術では再現できなくて、迷宮で発見されると大変な高級品として取引されるんじゃなかったっけ?
これはどうみても6倍どころか…。
まあいいか。
俺が自分で使う物に関しては、金銭価値がどうあろうが関係ないからな。
…よし、これで戦闘後のあれこれは全て終わったので、俺は次なる闘いを求めて部屋内に二つある転移空間のうち左側を目指す…が。
ぬおおおお…!
俺の頭を砕かんばかりに締め付ける緊箍児と、燃え上がるような後頭部の熱感に迷宮の床を転げまわる。
脳のチャンネルを切り替えて苦痛を追い出そうとするのだが、切り替えても切り替えても新たなチャンネルに追撃が及んで逃れられない。
ぐぬっ…!
比較的穏健な鎖帷子までもが、俺を圧し潰さんばかりに重みを増して…しかも冬山に放り出されたように冷たい!
懐の手裏剣たちも抗議の声を一瞬上げようとしたが、俺の後頭部から発する光に次々と捉われてしゅんと大人しくなってしまった。
…わ、わかった。
帰還するから…、帰還するからもうよせ…。
俺は這うようにして右手側の転移空間に向かい、ふわりとした浮遊感に身を任せた。
目の前には地上へと続く登り階段。
どうやら無事戻ってきたようだ。
迷宮の一室から地下10階層の元来た場所に戻った俺は、そこからさらに右手に這い進んで地上付近へと転移してきた。
…ふぅ。
まったく、ひどい目にあったぞ。
手裏剣たちに触発されてか、最近は防具勢の反乱が日に日に…む?
俺は目を閉じて気配の感知に集中する。
これは…来てるな。
久しぶりに新たな漂人の感覚を掴んだ俺は、立ち上がって地下1階層の奥地を目指す。
さすがに人命救助の為とあっては防具勢も反対するわけにはいかないのか、俺は苦痛に苛まれることもなく移動できている。
…一人のようだが、闘っているな。
どうやら戦闘能力を備えた人物のようなので、もしかすると手助けの必要は無いかも知れないが…。
まあ会ってみて判断するか。
風のように迷宮1階層を駆ける俺は、巻き込まれた魔物の塵を後に残しながらあっという間に気配の元に到着した。
曲がり角からそっと気配の主を窺い見る。
迷宮の一角を彷徨っている人物は女性で、朱色の袴に白無垢の着物。
袴と同じく朱の前紐が鮮やかで…これは巫女の千早か?
黒髪の美しい巫女は10代後半だろうか、小柄で嫋やかな見た目とは不釣り合いにその両手には薙刀を握っている。
えーと、もしかしなくても同郷人だな?
よし接触してみよう。
「…俺は敵じゃない。お前を地上に案内するぞ」
俺が声をかけると、そこで初めて気づいた巫女は驚いて後退った。
…気配を隠したまま接近する癖を改めないとな。
「…そ、そなたは? いえ、それより! 七之丞さま…秋山七之丞さまをご存知ありませぬか!? きっと近くにおられるはず…! 身は、そのために渡って来ましたゆえ!」
おっ、これは秋山どのへの土産が増えたぞ。
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