第140話 約束
さて、さっそく負傷してしまったぞ…。
俺はマジックバッグから取り出した治癒ポーションの封を切って飲み下す。
ちなみに今回はタマラが調合したポーションだが…ふむ、こりゃ婆さんのポーションと同様に口当たりが良くて飲みやすいな。
しかし薬効がまだ足りないのか、左肩の貫通創が治りきらないので自作の治癒ポーションも追加で飲む。
…おえっ。
この喉に絡みつく不快感よ…。
タマラは婆さんの弟子らしく優しい味わいのポーションを調合すると言うのに、どうして俺が作るとこうなるのか…?
まあ薬効は十分なようで傷は塞がったが…、しかし鎖帷子が破損したのでダメージを受けた証拠は残ってしまう。
恐ろしい使い手が相手だったので仕方ないと言えば仕方ないのだが…。
無傷で早期に帰還することで妻の信用を高めようという方針が、早くもとん挫してしまったことは否めない。
普段ならばここで「叱責確定なのであとはもう同じだ!」とばかりに遊び回るのだが、ここはよく考えてから行動しよう。
それはそれとして、眼前にある宝箱の処理にかかる。
またよく分からない装置の罠が仕掛けられているが、鍵の開錠と同時に解除されるのでさしたる意味はない。
…おっ、こりゃすごいな。
開いた宝箱の中はまさに金銀財宝といった風情で、溢れんばかりに金貨や宝飾品が詰まっているぞ。
それに加えて出現したのは、盾だ。
この世界ではよく見かけるタイプの凧の形をした盾で、明らかに強力な魔力が込められていることが分かる。
盾か…これは王家へ売却しないで、我が家の戦力増強に回そうかな?
この形の盾はダリオが使っていたはずだし、これで文字通り家族を守護する盾になってもらおう。
それと「君主」の迷人が使っていた長剣もなかなかの業物だ。
魔法の品という訳ではないので、ヤツも俺と同じように魔力の充填で攻撃力を増加させていたんだろうな。
よし、この剣はベニートへの土産にしよう。
家族が住む二階の防衛はあいつが要だからな。
さて、宝箱の処理を終えた俺は室内を見渡す。
一見すると行き止まりでどこにも通じていないのだが…、一度かかったので転移空間の存在が魔力視で感じられる。
えーと、転移空間は二つあって…右側の物は見覚えのある彫刻の文字が見える空間、つまりこの階層の入り口につながっているな。
他方、左側の転移空間は見覚えの無い通路につながっていて、つまりは右が帰還で左が進行ルートというわけだな。
…もう一戦だけいいよね?
思わぬ地下1階層との往復を強いられたとは言え、時間の経過はまださほどでも無いし。
もう一戦だけして帰還しても十分に早期帰還となるだろう。
懐の手裏剣たちも満場一致で進行に賛成票を投じているし、後頭部の熱感も緊箍児の締まり方もまだ耐えられないほどではないし、鎖帷子からは呆れたような気配が漂って来るだけで重くはなっていない。
…よし、地上に戻ったらお前もちゃんと修理してやるからな。
寸法を合わせる際に取り外した輪が残っているから、修理の素材にもきっと問題はないだろう。
俺は左側の転移空間に足を踏み入れる。
ふわりとした浮遊感を経て未知の通路に転移すると、眼前にはまたしても謎の文字が刻まれていた。
もちろん読めないので無視して足を進めると、今度は「の」の字に曲がりくねった通路が続いて突き当り左手に扉が現れる。
中からは魔物の気配。
…ふむ、この階層はこうして転移と魔物の部屋で構成されているわけか?
面白い趣向じゃないか。
探し回らなくとも強力な魔物が出てくれるのが気に入った。
扉に身を寄せて中の様子を窺うと…「魔法使い」の迷人が6体に、…これはサムライ系の迷人が1体だな?
手裏剣たちと目標の割り当て議論を手早く済ませると、俺は扉を蹴破って両手を振り抜く。
「「「「「「 !?」」」」」」
6つの首級が宙に舞う間に俺は両手に得物を構え、母衣を背負った鎧武者と対峙する。
ふむ、母衣を背負うということは本陣の馬回りか旗本侍か…。
いずれにしても手練れを配するところで、手にした大身の槍も冷たく鋭い輝きを放っている。
さあ、どう料理してやろうか…あっ!?
「ガフッ…!」
空中に弧を描いて戻って来た手裏剣たちが一斉に旗本侍に殺到して…。
手にした槍の柄でその3つまでを弾いて見せた侍だったが、残りの3つを首筋や顔面に受けて塵と化していく。
なんということをするんだ!
事前に獲物を指定し合ったのに、これは完全な約束違反じゃないか!!
手元に戻してみると手裏剣たちからは、してやったりとほくそ笑む気配が返って来て…。
その後は、もう次回の探索に連れて行かないと憤る俺と、必死に謝罪と再発防止を誓う手裏剣たちと、いいから早く帰還しろと主張する防具勢とがワイワイと迷宮の一室を賑やかにしていた。
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