第134話 査問会
現在俺は、客間に召集された査問会議の面々に囲まれながら正座を続けている。
査問会のメンバーは、議長のエリカを中心にドロテア婆さん、アデリナさん、そしてタマラとジーナが議決メンバーだ。
まあ、つまりは家族の女性陣だな。
それに原告のイリニヤと、オブザーバーのベリンダとアニタが席についている。
要するに我が家の女性が全員集まった場で、俺は延々と尋問を受けているのだ。
この尋問と審理は当初混乱した。
エリカの妊娠を知って騙されたとイリニヤが激昂したり…、俺が贈った指輪を示して求婚を受けたと主張するイリニヤにエリカが興奮したりと…。
うんまあ、ちょっと思い出したくない光景が広がっていたな…。
その後メンバーを増やしてやや落ち着きを見せた場で審理が進み、俺がこの世界を知らないことによるトラブルであるという全容がほぼ解き明かされつつある。
どういうことかと言うと、この世界では女性に赤い宝石を贈ることは求婚を意味し、俺が言外にエリカとの関係を解消することを仄めかせていたと解されたのである。
その事実を聞いて俺は気が遠くなりそうだったが…。
同じ漂人であるベリンダやタマラが証言してくれたおかげで、宝石の意味が世界によって異なることが理解されなんとか事なきを得た。
エリカも今では落ち着きを取り戻し、むしろ俺の軽率な行動で傷つけられたであろうイリニヤに気づかわしげな視線を送っている。
そうだな…。
今回は完全に俺が悪いし、直接の被害者はイリニヤだろう。
ともかく、彼女の赦しを得ることが喫緊の課題である。
俺は彼女に向き直ると、両手を前方について頭を下げ全霊を込めた謝罪の言葉を述べた。
「…本当に申し訳なかった。この通りだ」
しん…と室内が静まり返り、皆がイリニヤの反応を待っているのが分かる。
俺にはこの時間が無限にも感じられた…。
謝って許される問題でないとしたら、なんらか財貨での弁済できないだろうか…?
…いやいや、そうやって安易に考えたことが今回のトラブルの端緒であって…
「…頭を上げて、シュウ」
意外にも優しいイリニヤの声音が聴こえる。
赦してくれるか…。
俺はイリニヤの寛容さに感謝しながらも、神妙な表情で顔を上げてその笑顔に向かい合う。
「私は別に怒ってなんかいないわ」
…ああ、人を赦す心とはかくも偉大なものなんだな。
俺は深く感動しつつも、彼女に対して出来てしまった大きな借りを今後…。
「…だって、婚約は有効なんですもの。あなたがどんなつもりであったとしても、私はもう氏族の祖霊に婚約を報告してしまったわ。だから取り消しなんて無いのよ?」
…
あ、あれ…。
赦すとか赦さないとか以前に、求婚の無効を認めてくれていない…?
「…どうしても誓いを果たさないと言うのであれば、これは見過ごされない罪だわ。そうしたら、シュウにはエルフの里で緑の牢獄に入ってもらうことになるの。刑期は長老たちが決めることだけど…そうね、初犯だから150年くらいで済むかも知れないわね?」
事実上の終身刑じゃないか!?
いやいやそれは勘弁してくれ、俺には守るべき家族があるんだ…!
俺が顔を青くしているのを見て、イリニヤはクスリと笑った。
「うふふ…、大丈夫よ。今すぐに誓いを果たせとは言ってないわ。だって私はいつまでも美しいのだから…。あと20年でも30年でも時が過ぎて、エリカの容姿が見る影も無く衰えてからでもいいのよ…?」
そう言って誇らしげに胸を反らし、スッキリした身体の線を俺に見せつけるイリニヤ。
何という事を言い出すんだこいつは…。
見ろよ、さっきまで気づかわしげだったエリカの表情が能面の様に消失したじゃないか…。
と、ともかく今日のところはお帰りいただこう。
この後はエリカのご機嫌伺いに集中しなくてはならないのだ…!
イリニヤへの謝罪は後日改めてするとして、いや謝罪ではどうにもならなそうか…。
エルフ氏族の長老とやらを説得する必要があるならば、困難でもその道を模索するしかないのか…?
そこで俺は、ずっと大人しかった懐の手裏剣たちカチャカチャと騒ぐ気配に気づく。
ん…、なに? うん…。
馬鹿馬鹿…!
お前らが暴れて解決する話じゃないんだよ!
エルフ氏族は魔物じゃ無いんだよ…。
地上は迷宮と違って力で解決しない事がたくさんあるんだ。
…俺も今まさにそれを痛感してるところなんだよ。
★★★★★やブックマークはもちろんのこと謎スタンプもいただけますとモチベーションになります!




