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【web版】現代忍者は万能ゆえに異世界迷宮を一人でどこまでも深く潜る  作者: 左兵衛佐


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第133話 内訌


 俺はいくつかの遭遇戦で魔物を屠りながらも、元来たエレベータの座標を目指して歩を進めていた。


 ふーむ、どうやらやはりこの階層が迷宮の最深階層ということになりそうだな…。


 隅々まで探索を行ったわけではないのだが、それでもこれまでの階層の大きさを考えると残すところはそう広くないはずだ。


 これまでに下り階段を見つけていないし、なによりエレベータには「9」までのスイッチしかないからな。


 …もうすぐこの迷宮の探索が全て完了してしまうかと思うと、少し寂しいような気持ちが湧き上がって来る。


 思い返せば、この世界に来てからは来る日も来る日も夢中になって迷宮を探索してきた。


 持てる技の全てを尽くし、新たな技を次々と練り上げ、今や先人の誰もが到達したことが無い高みの闘いすら得た。


 充実の日々はまるで俺に新たな人生を与えてくれたように思えて…、かつての苛立ちなどもう思い出すことすら難しくなっている。

 

 そして、家族。


 今も俺には地上の暖かな灯火がハッキリと感じられて、この光を辿っていけば家族が待つ棲み処に帰り着くのだ。


 …もう俺は闘いに身を焦がすべきではないだろうな。


 果てしなく深い迷宮に挑み続けていれば、必ずいつかは力尽きる。


 頭の片隅では分かっていたことだが、ずっと見ない振りをしてきた。


 しかし、こうして迷宮の果てを目の当たりにして…、俺も自分の在り様を見直すべき時が来てしまった。


 この世界に来た当初は、きっと迷宮の闇に消え去ることを俺自身望んでいた様に思う。


 今はもちろん違う。

 俺の帰りを待つ家族がいて、俺の子を宿した妻がいるのだ。


 あともう一度か二度探索を行って、この階層を隅々まで踏破したならば…それで終わりにしよう。


 そして家族と共に地上で生きる、当たり前の生活を構築しよう。


 …うーん、しかし地上で何をして過ごせばよいのか。


 婆さんのポーション店はタマラが継ぐだろうから俺は不要として…、いっそ家に常駐して警備体制を固めてみようか?


 いやいや…、それじゃあ文字通り自宅警備員じゃないか。


 うーんうーん、俺に商売の才覚があるとも思われないしなぁ…。


 まぁ…、それこそ地上に戻れば有り余る時間があるのだから、ゆっくり考えるとしようか。






 眼前にはエレベータのスライドドアが見え、俺は顎を撫でて時間の経過を確認する。


 掌にはわずかにチクチクとした感触が返って来て…うん、まあ今回は早期に帰還すると約束しているのだから良い頃合いだろう。


 俺はマジックバッグから青いリボンを…っと?

 懐の手裏剣たちが何やら騒がしい。


 なんだ…?


 俺は慌てて周囲を警戒するが…、近くに魔物の気配は無い。


 魔物に反応している訳ではないのか。


 8枚の手裏剣たちを懐から取り出してみると、そのうち6枚がエレベータ入り口のあるこの部屋の一角へと俺を導こうとしていて、どうやら残りの2枚は反対意見らしい。


 いや…、そこは落とし穴だぞ?


 ここにきてまさかの裏切りで俺を罠に嵌めようと言うのか?


 そんなに迷宮探索を切り上げることに怒り心頭なのかお前らは?


 俺だってもっと遊びたいというのに、お前らときたら…あっ、こら勝手に!?


 手中を飛び出した6枚の手裏剣たちは空中に弧を描き、落とし穴の偽装床を次々と貫いた。


 おいおい、なにやってんだコイツら…?


 今度は呼び戻せとうるさいので手中に戻すと、再び飛び上がって謎の破壊活動を続ける。

 これは、反抗期なんだろうか?


 繰り返し手中を飛び出しては偽装床を破壊する手裏剣たちの活動により、やがてガラガラと音を立てて崩れ落ちた床面には正方形の穴が開いて…。


 ムワッ…と、むせ返るような魔物の気配が立ち昇った。


 俺はふらふらと足を進めて床の穴を覗き込む…。

 

 …ある。

 さらに下の階層が、あるじゃないか…!


 だから言っただろとばかりに得意げな6枚の手裏剣たち…。

 髭の伸び具合からしてまだ時間はある…。


 俺は灼けるように熱い後頭部の感覚を気力で捻じ伏せ…むぐぐぐ、頭が割れそうなほど強く締め付けてくる緊箍児…。


 手裏剣たちは前進派と帰還派で6対2に分かれて懐でガチャガチャとせめぎ合い、鎖帷子はずっしりと重量感を増して帰還派に与しているようだ…。


 むむむむむむ…!






 …帰還っ!!






 地上の光が降り注ぐ階段をゆっくりと登る。


 装備品たちの内訌をどうにか収めた俺は、次回探索時に地下10階層へ挑戦することを約束して前進派と妥結したのだ。


「おっ? 今回はやけに戻りが早えじゃねえか」


 俺の姿を認めたウーゴも不思議そうにしているが…、俺は今や自分一人で生きるに非ず。


 こうして早期に帰還することで妻の信頼を回復できるのだから、元より誰に言われなくともそうするつもりであったのだ。


 中央区の広場を出て南区との境にかかる橋を渡りながら、俺はエリカの微笑む姿を早く見たくて知らず知らずのうちに速足となっていた。


 自宅の門扉をくぐった俺は、庭で棒手裏剣の稽古に励むヴィクトルの様子を横目に見ながら勝手口に回り、ホール内で歩哨に立っているシーロを労ったあとに夫婦の部屋を目指し…おや?


 客間に来客の姿があるな。

 あの笹の葉のような耳は、後ろ姿でもイリニヤと分かる。


 どうやらエリカが来客の対応にあたっているようだな。


 何の用かは分からないが…まあ、あの二人は元からして顔見知りなのだから俺に用があるとも限らないか。


 ともかく早期の帰還を褒めてもらおう。


「エリカ、戻ったぞ」


 俺が声を上げながら客間に入ると、二人の女の冷たい視線がグサグサと4本突き刺さる。


 …あ、あれ?

 俺は早期帰還の約束を果たしたから、これから褒められ…。


「シュウさん、お聞きしたいことがあります」


 腰の打刀と脇差を帯から抜いてテーブルに置いた俺は、すみやかにその場に正座の姿勢を取った。


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