第132話 手裏剣
というわけで、俺は四方手裏剣の投擲実験の標的を探していたのだが…。
通路の先に見えたのは白霜巨人が4体。
うーんまあ、標的としては外しようも無い大きさがちょっとアレだが…最初だからこのくらいでいいか。
迷宮の闇に潜んだ俺は、両手の指に挟み込んだ四方手裏剣に魔力を込めていく。
ちなみに人差し指から小指までの間に挟む関係で、それぞれの手に3枚ずつを保持しているのだが…と。
こりゃ凄いぞ…。
ふつう魔法が込められた武器と言うのは俺の魔力を拒絶する傾向があるのだが、この四方手裏剣は国宝三日月の太刀にも匹敵するほどの魔力親和性だ。
どれほど魔力を注いでも溢れ出す気配が無くて…。
つまり、これまでの棒手裏剣とは比較にならない威力を期待できる。
俺は両手を眼前にクロスしながら手裏剣の飛翔コースを脳裏に描く。
4枚は左右に弧を描きながら白霜巨人の首に突き立つコースで、2枚は少し遠回りして待機しながら打ち漏らしを狙うコースだ。
普通の投擲武器ではこんな誘導ミサイル紛いのことはできないので、この時点でもうとんでもない武器なのだが…。
まあ、そう言うことは上手くいってから考えるか。
…いけっ!
両腕を振り抜いた俺の手を離れた6枚の飛翔体は、音も無く迷宮の空間に複雑な軌跡を描き…。
「「「「!?」」」」
4体の白霜巨人の首級が宙に舞い、待機していた2枚の手裏剣も少し遅れて2体の白霜巨人の心臓を目掛けて突入して…その胴体を貫通した。
…
……
………えっ?
う、嘘だろ。
遠距離攻撃に加えて精密誘導、おまけに時間差攻撃で…それでいて俺が直接斬りつけるのに匹敵する威力だと…?
などと俺が呆然としていると、離れたところにある6枚の手裏剣から「早く手元に戻せ」と言わんばかりの催促の魔力が届く。
…それに俺が気付いた時にはすでに手中に戻って来ていて、なんと言って良いのか分からない気分になった俺はマジマジと彼らを見つめる。
手裏剣って、こういう物だっけ…?
いや、突っ込んではなるまい。
俺に有利な事象については突っ込まないと誓ったではないか。
それよりも、威力もさることながら…ちょっと見逃せない挙動があったぞ。
俺は白霜巨人の首級が舞った時点で呆然としてしまったのだが、空中の待機軌道にあった2枚の手裏剣が当初の『作戦意図』に従って勝手に心臓目掛けて突入したな…?
いやそれどころか、俺は撃ち漏らしが発生すると予期していたので想定外の事態が発生したのだ。
それでもこの2枚は、追撃として意味を為しうる最大効率を『判断』して心臓を狙ったな…?
…もしかして、自律判断機能付きなのか。
これはもうちょっと実験が必要だ。
「「「「「「!?」」」」」」
手元に手裏剣たちを戻した後に、俺は通路の角から標的を覗き込んでみる。
するとそこには首を刎ねられて塵となりゆく6体の「盗賊」迷人の亡骸が見えた。
…間違いないな。
俺は通路の角の向こうからおおよその気配だけを頼りに投擲したのだが、どうやら手裏剣たちが自己判断で「盗賊」迷人の首筋を目指して軌道修正したらしい。
精密誘導ミサイルどころか、自律AIによる攻撃ドローンだなこれは…。
なんだか手中にある6枚の手裏剣からは誇らしそうな気配まで伝わって来て…、投擲されなかった2枚の手裏剣はプンプンモードである。
わかったよ、投げる順番はちゃんとローテーションするからさ…。
いや俺は誰と話しているんだ…?
ともかく、これは実験を続けざるを得ない。
その後、俺は迷宮を徘徊し続け、魔物の気配を察知しては手裏剣たちを投擲した。
それにより「魔法使い」迷人やら、「破戒僧」の迷人やら、肥満体の魔物やら、翼の生えたT-REXやら、ともかくなんであれ手裏剣たちの必殺の軌跡を免れる魔物はおらず、俺は滅多に魔物が生きている姿を見ることすら無くなってしまったのだった。
…
……
………つまんないから、俺も闘っていい?
そう考えた俺の手中では、次に投擲されるはずだったローテ番の手裏剣たちから抗議の声が挙がり…いや、実際に声が聞こえるわけではないんだが。
かわりばんこ…! せめてかわりばんこにしよう…!
ようやく俺と手裏剣たちで交互に魔物を相手にする線に落ち着くまでに、結構な時間がかかってしまったぞ…。
どうして自分の武器と魔物を奪い合わなくてはならないのか。
…ともあれ、そろそろエレベータの座標に戻るコースを選びつつ、次なる魔物を探して行こう。
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