第131話 蒼鱗の悪魔②
俺は奥歯の脇に挟んでいた解毒薬の薬包を噛み潰す。
右半身の痺れは幾分改善したが…どうも満足には動かないな。
炎と氷雪の奔流が吹き荒れている中で俺は自身の右手に魔力視を向ける。
…そうか、やはりこれは魔力による神経阻害だな。
どうも肌に触れられてもいないのに毒を送り込まれるというのが腑に落ちなかったが、俺の生体魔力をかき乱す魔力毒ということならば理解できる。
「…こぉおおお~」
灼熱と極低温の中から抜け出した俺は深呼吸を行い、息吹を口から吐き出した。
眼前には蒼鱗の悪魔が迫っているが、身体が動かないことにはどうにもならないので体内魔力に集中する。
俺の体内で暴れ回る魔力を抑えつけ、魔力密度を高めることで対外に排斥していく。
…よし、動く。
「ギュアアア!」
「おおぉ!」
振り下ろされた鉤爪を手首ごと斬り飛ばし、俺は剣閃の嵐となる。
蒼鱗の悪魔の脇腹を斬り裂き、股座から斬り上げ、肩口から斬り落とす。
瞬きする間の3連撃で一体の悪魔を沈黙させ、前方にその身体が傾いだところで横薙ぎに首を刎ね飛ばした。
斬れば死ぬ相手だ。
臆することは何もない…!
俺は駆け寄って来ていたもう一体の蒼鱗の悪魔に向けて突進し、真っ向から三日月の太刀を振り下ろす。
あらん限りの魔力を凝縮させた太刀の刃は、眩い光を放った。
「ギョッ…!」
防御のために頭上にクロスされた両腕ごと斬り裂いた切っ先が水牛の角の間を捉え、頭部を縦に通過したのちに首、胸、腹と斬り進んで悪魔の身体をY字に割いた。
ここで再び俺を猛炎と極低温の奔流が押し包むが…、こんな子供だましをいつまで続ける気だ…?
視線を向けるとすでに両腕を失った悪魔に加えて、いつの間にか新たな一体が出現しているのが見えた。
群れるのが好きだな、貴様らは。
「だおおおおぉあああああ!!」
俺の烈々たる気が轟いて、二つの魔法をかき消す。
蒼鱗の悪魔がたじろいだように見えた気がした。
「…!?」
「…!!」
迷宮の暗闇に三日月が煌めいて、水牛の角を備えた悪魔の首級が二つ宙に舞う。
頭部を失った巨躯が膝をついて、やがて塵と化して消えた。
魔力の高まりを感じて後ろを見やると、今まさに空間の虚ろから出現しようという蒼鱗の悪魔が首を覗かせていたが…、するっと引っ込んで帰っていった。
…まあ、敗勢が確定したところで援軍に呼ばれても困るという訳か。
部屋内にはもはや俺以外に動くものは無く、魔力の偏在や虚ろも感じられなくなった。
終わりだな。
…これ怒られるかな、セーフかな?
俺は悪魔どもの魔法で一部が焦げたり破れたりしている綿甲を、手で隅々まで探りながら思案していた。
表面の綿甲はダメージを受けてしまったが、俺本体には魔法によるダメージはほとんどない。
自身の魔力で防御したという事もあるが、やはりこの青白い鎖帷子が共に防いでくれたことが大きいな。
俺はダメージを受けていないということをアピールしつつ…、やはり早期に帰還することで叱責の総量を減らすことでなんとかしていくか…。
そうと決まれば、早いとこ宝箱を処理して次の闘いに向かおう。
なにしろ今の戦闘は良かったぞ、蒼鱗の悪魔は一体一体がこれまでに闘った魔物の中でも最強格に強靭であったし、たくさん出てくるのもいい。
刃に魔力を凝縮させる技法をもっと実戦で試したいし、なにより俺自身に火がついてしまって早く次の闘いがしたくて堪らないのだ。
なんだかよく分からない装置と接続された宝箱の鍵を解除して、せわしなく蓋を開いた俺は……えっ?
宝箱から出てきたのは…これまでよりも大判の金貨が数十枚と、見たことも無いほどに大粒の宝石があしらわれた宝飾品の数々と…。
…これは、四方手裏剣?
掌に収まるようなサイズで、四本足のヒトデのような形の金属の薄板が8枚。
そのヒトデの足一本ごとが鋭利な刃を備えていて、真ん中には紐を通して保持するための丸穴が開いている。
うん、どう見ても四方手裏剣だこれ。
もちろん実家の道場にはこのタイプの手裏剣もあったし、俺も使って使えないことはないが…。
俺はどちらかと言うと棒手裏剣の方が得意で…いや、それ以前にどうしてこの世界に四方手裏剣が…?
いやいや、それこそ今さらな話か。
この世界には手裏剣どころか忍者本体も多数いるではないか。
まあちょっと試してみるか。
手に取ってみると、何らかの魔法が込められているか…?
ん…そうか、使い方のイメージが自然と湧いてくるぞ。
手裏剣に込められた魔力が、どう扱われたいのかという動きを示してくれるので魔力を丁寧に読み取れば鑑定も不要に思えて来る。
つまり、こうか。
俺は迷宮の扉を標的に手に取った手裏剣を一枚投げつける。
空中でカーブした四方手裏剣は縦回転で鋭く飛翔し、俺のイメージ通りに相手の防御を掻い潜って鋭角に首筋を捉える軌道で扉に突き立った。
…ふむ、俺の意図した通りの軌道で飛んでくれるという効果が、まず一つ。
もう一つはこれだ。
迷宮の扉に突き立っていた四方手裏剣が、次の瞬間には俺の手中に戻っている。
自動回収とでも言うべきか、戻れと念じると俺の手元に戻って来るらしい。
うーん、こりゃどう見ても有用な武器だな。
棒手裏剣の性能にも限界を感じていたところではあるし、しっかりと練習して投擲武器も更新していくか…。
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