第129話 魔力視
扉に近づいて中の気配を窺う。
…ふむ、これは例の翼付きT-REXの気配だな。
今日は早期の帰還を目指すので、騎乗して遊…有利なポジショニングを研究したりせずにすぐ片付けていこう。
俺は三日月の太刀を引き抜くと、部屋内部の5匹のT-REXの死角周期を窺って飛び込むタイミングを測る。
…いま。
「「「!?」」」
「ギョアッ!?」
「ゲゲッ!?」
体当たりで扉を弾きながら迅雷の勢いで踏み込んだ俺は、首を下げていた3匹のT-REXは即座に首を刎ね飛ばし残りの2匹は両脚を斬り倒す。
突然のことに身を捩っているT-REX 2匹も素早く断頭して、戦闘は終了である。
うむ、やはり遊ばな…有利なポジショニングを研究しなければすぐに片付くな。
太刀をマジックバッグに戻して、さっそく出現した宝箱の開錠にかかる。
…初めて見るタイプの罠だな。
鍵穴のユニットに2本の銅線が貼り付けられていて…、こりゃ電流で感電させる意図なんだろうか?
まあ、なんにせよ開錠で解除されてしまうので意味がないのだが。
宝箱を開くと、果たして銅線に接続された魔石が現れた。
この魔石が電流を発生させるバッテリーのようなものなんだろうな。
残念ながら宝箱の罠ユニットは解除と同時に塵となってしまうのだが、魔石を使って電流を発生させるというコンセプトが存在することを学んだぞ。
…それで何をするのかは全く思いつかないが。
えーと、電気を利用したクロムメッキ加工とか…?
他には、えーと…。
うん。
もっとテクノロジーに詳しい現代人を連れて来てくれないと無理だな。
お?
宝箱の中からは数枚の金貨と宝飾品、そして見覚えのある短杖が出現する。
こりゃ、『ワンド・オブ・フレイム』に相違ない。
これ一本で現在の自宅が購入できるほどの値打ち品だが、まあ別に金には困っていないので自宅のセキュリティ用にエリカに持たせてみようかな…?
…いや、エリカに持たせたからと言って、まさか叱責の内容が火炙り刑にグレードアップすることはあるまい。
……たぶん。
さてさて、俺は次なる獲物を探し求める。
通路の先からはさっそく新たな魔物の気配がして…おっ、こりゃ未知の魔物だな。
迷宮の暗闇に同化した俺は慎重に歩を進めて、通路の角から魔物の姿を窺い見る。
…巨大な牛。
それも濃緑色の体表が金属的光沢を持っていて…、あの光沢はオーガの経験からすると本当に金属的な防御力を備えていることを示唆しているな。
そして、うなじがビリビリとするような危険な予感。
ふーむ、あの巨大な角に貫かれては無事では済むまいが…、それだけじゃないだろうな。
なんだ…、何がそんなに危険なんだ…?
俺は身を潜めたまま、何も見逃すまいと集中して魔物の観察を続ける。
力強い足取りから蹄による蹴りも危険だろうと分かる…。
発達した顎を見るに噛みつき攻撃も侮れまい…。
尾による打撃も脅威足り得るか…?
…いや、違うな。
それらも危険には違いないが、本当に危険なのは…吐息だ。
巨大な牛の魔物の、これまた巨大な鼻孔から噴き出される吐息。
これに大量の魔力が籠っていることを俺は発見する。
あれ。
これ、なんで分かったんだ…?
今俺の眼には魔力の偏在が視覚化されていて…、そうか。
これは牡山羊の悪魔の脳波を分析している時に得た、魔力視と呼ぶべき感覚に酷似しているぞ。
どうやら、牡山羊の悪魔が魔力を視ている感覚と同調したおかげで、俺自身も脳による魔力視処理のコツを掴んだようである。
もちろん、脳の処理だけを真似したとしても知覚器官が備わっていなければ不可能なんだが。
ではどうしているかと言うと、実は眼球内に存在する光学細胞が魔力の反射を同時に受信していたのである。
つまりは、紫外線や赤外線のように眼球に届いているのに知覚できない波長と同じことで、あとは元から届いている物を適切に受容して処理するだけなのだ。
俺は網膜に魔力を込めもう一枚魔力の膜を形成し、それを押しのける微細な魔力の形で魔力像を結ばせている。
あとは視神経を通して脳に入って来る解像情報を、牡山羊の悪魔を参考にもう一度光学と魔力に分離処理している訳である。
これまでに存在しなかった知覚機能を急に導入したせいで脳がパンクしそうだったが…、速やかに自己催眠に入った俺は知覚マップの再整理を短時間で終わらせた。
これは有用な技を得たぞ…。
ちょっと時間が掛かるので常用はまだ厳しいが、これも鍛錬で向上させていくとしよう。
ともあれ、あの魔物の危険性が分かったので対処法も決まったぞ。
すなわち、後ろから忍び寄って吐息を浴びる前に一撃で討ち果たすのだ。
…これ、魔力視は必要だったか?
まあいい、疑問を封印した俺はマジックバッグから槌鉾を引き抜いて忍び足を始める。
音はもちろんのこと、空気中の魔力も揺らがせない完璧な潜行を成し遂げるのだ…。
亀の歩むような速度で牛の魔物の背後から接近した俺は、一転して跳躍した。
牛の魔物の胴体を後ろから飛び越すようにして頭部に向けて落下する俺は、渾身の力を込めてその脳天に槌鉾を振り落とす。
ぼがん、という重々しい破裂音が響き渡り、牛の魔物の頭部は粉微塵に砕け散った。
…成った。
これぞ奥義、『すごく強い力で脳天を叩き潰す』の術だ…。
…ヴィクトルに伝授する日が来るまでに、もう少し恰好がつくように術理やらを捏造して後付けしておこう。
先人もきっとそうして来たに違いないからな…。
(急な予告)
次回は強敵が出現します
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