第128話 仕込み杖
つい先程ぶりに戻って来た迷宮1階層、俺はエレベータを目指して歩んでいく。
コボルトやらオークやらとすれ違う度に、俺は普段は無視するか手刀で片付けるところを一体ずつ丁寧に打刀で首を刎ねていった。
…うん、いい。
やはり迷宮の魔物を斬る方がずっと心地よい。
それに最近は国宝級の太刀まで得たせいで感覚が麻痺していたが、やはり剣豪迷人から譲り受けたこの丁字乱れの打刀も素晴らしい切れ味である。
もちろん、左逆手に握り込んだ粟田口の大脇差も素晴らしい。
魔力を込めようと意識しなくとも、手に持っているだけで常に俺の魔力が浸透していく感覚だ。
おかげで、まるで左手で作った手刀をそのまま延長したかのように自在に振ることが出来る。
コボルトの集団を殲滅し終えた俺は両手の得物を鞘に納める。
…木工職人に試作させた鞘はイマイチだな。
いくつかの鞘を預けてサンプルにさせたんだが、まだまだ納刀や鞘走りの感触が良くない。
まあ、これも要望を伝えつつ何度も作らせてみよう。
今は二つの工房に依頼しているが、次はもう街中の木工工房に拡大してみようかな。
さて、眼前には直立した豚の魔物…オークが4体見える。
俺はマジックバッグに右手を挿し込んで、今度は三日月の太刀の柄を握ってスラリと引き抜いた。
八双に構えて袈裟に振ると、するりと刃が通ってオークが斜めに分断される。
水平に振ると胸元から上下に分断されて、縦に振ると股下まで唐竹に割れる。
「ブ、ブオッ!?」
するすると音も無く両断されていく仲間を見て恐慌を起こしたオークは立ち竦んでいる。
普段ならもう無視するところだが…俺は体内の魔力を燃焼し、気力を研ぎ澄ませて血を熱くしていく。
「しぃあっ!」
縦に横に袈裟に逆袈裟に振って、薙いで戻して燕に跳ね上げ最後には喉を突き通す。
バラバラのブロック肉になったオークが迷宮の石畳にボタボタと零れ落ちた。
…まだ鈍いな。
エレベータに到達するまでにもっと剣気を高めて、太刀筋を研ぎ澄ませたい。
なぜ今日はこんなにウォーミングアップを急いでいるかと言うと、地下9階層に直行したいからだ。
なにしろ前回は長時間に渡って探索に没頭したため、エリカから強い叱責を受けてしまったからな…。
まして今は身重の妻を家に残す身であるからには、普段よりも早く帰ることで信用を回復していきたい。
…そうでもしないと、そろそろ迷宮出禁が言い渡される可能性もあるからな。
なんとしてもそれだけは避けなくてはならない…。
家産はもう十分だから迷宮に入る必要は無いと言われてしまえば、ぐうの音も出ないのだ。
というわけで、今回は地下9階層に直行して本命の探索時間を確保しつつも早期の帰還を目指していく。
俺は目についた魔物を次々と屠り、まるで迷宮最深部にいるかのように自身を高めながら太刀筋を研ぎ澄ませていくのだった。
最低限のウォームアップを終えてエレベータの箱内に入った俺は、迷わず「9」のボタンを押下する。
身体に僅かな浮遊感が得られて、静かに迷宮最深部へと移動していることが実感された。
まだ少し身体が硬いか…?
いきなり強力な魔物と鉢合わせるのはマズいかも知れんな。
俺はエレベータの下降時間の間もクルクルと身体を動かして心拍数を上げて行くが、これ以上は戦闘の中で火を入れるしかないだろう。
がこん、と音を立ててエレベータの扉が開くとそこには俺を歓迎する5体の影。
…虚無僧?
編み笠を被った僧形の男たちが杖をついているが、そんなのどう見たって仕込み杖でございますと言う重量感をしているな。
エレベータから出た俺を包囲せんと広がる足取りを観察して…うん、弱くはないがまあまあと言ったところか。
よし、ウォームアップの仕上げに良さそうだ。
それに仕込み杖というのも珍しいので貰っておこう。
俺は両手に得物を抜いて、一足で疾風になる。
「ヌン!?」
「アガッ!?」
仕込みを抜かせる暇も与えずに二体を斬り伏せると、残りの虚無僧どもは三方から俺を取り囲んで来るが…。
「「「!?」」」
死角をさらけ出しているので、包囲も何もあった物ではない。
虚無僧どもは俺を見失って、仕込みの刃をメチャクチャに振り回す。
うーん、どうしてこいつらは劣勢に立つとこうなるんだろうか。
そんなに気勢を乱してはなおさら俺の再発見など覚束ないだろうし、すでに死んでいることにも気づいていないのだから呆れる他ない。
一体が刃を振った反動でバランスを崩すと、その首がゴロリと迷宮の石畳に落ちた。
「「!??」」
残りの二体も徐々に首が明後日の方向にズレていくことに焦っているようだが、それもやがて足元から塵と化して無用の心配となった。
俺は床に転がった5本の仕込み杖の一つを拾い上げて、刀身を検める。
…ふむ。
仕込みの性質上直刀であるが、まあそれなりの業物である。
5本は多いから1本…いや、観賞用と保管用で2本貰って行こう。
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