第126話 増員
庭でウェイトトレーニング中の俺の耳に、カンカンと小気味いい音が多数届いてくる。
この音の発生源は二つあって、一つは木剣を打ち合わせるダリオとヴィクトルのもの。
今一つは、我が家の倉庫のうち二つを居室へと改装している大工たちの槌の音である。
剣術ごっこの方はいいとして…いや、そちらもごっこというにはかなり白熱してはいるのだが、さておき大工仕事の方を説明しよう。
前日に引退の挨拶に加えて謎のキャンセル報告と、さらにシーロの売り込みにやって来たベリンダに対して俺は二つ返事でOKを伝えた。
もちろんシーロだけでなく、女性なのでエリカの身辺に置きやすいベリンダも即決採用である。
いやまあ、ベリンダもエリカとほぼ同じタイミングで妊娠しているので、いずれ警護役としては動けなくなるだろうが…。
どちらかと言うとシーロを住み込み警護に採用したいので、その妻のベリンダだけを放っておくわけにいかないという側面が強い。
まあ、ヴィクトルが跳び上がって喜んでいたので、これはよしとしよう。
さらに俺はパーティの解散に伴って探索者をやめ傭兵に転身を考えていた、戦士のダリオと女斥候のアニタにも声をかけて採用した。
ちなみに、残りの二人のうち女僧侶のクロエは寺院に勤めるクチがあるそうで、もう一人の魔法使いのクレメンテは魔道具を扱う店の娘と結婚して婿になるらしい。
さて、話が横道にそれたが、なぜ我が家の居室を増やしているかであるが…。
それはシーロたち4人を我が家の夜間警備に投入したいためである。
ダリオとアニタは何のかんのとはぐらかしてまだるっこしかったが、まあ要するにこの二人も一緒になるので、シーロとベリンダの夫婦と合わせて二組の男女を我が家に住まわせるのである。
なにしろ、夜間の押し込みに警戒したいがための警護人員増員なのだから、シーロたちには夜間も我が家にいてもらいたい。
しかしそれぞれ所帯があるとそうもいかないので、ならばその所帯ごと我が家に取り込んでしまおうという算段だ。
ちなみに、倉庫の位置はポーション店の店舗部分につながっていて、奥の居住区画とは直接つながっていない。
俺はこのさい壁をぶち破って接続してしまおうかとも思ったのだが、警備の都合上そうしない方がよいとベニートに進言されて思い止まっている。
まあ、たしかに現状の間取りの方が奥の居住空間に入るにはホールを必ず経由するので、夜間警備のスポットをホールに集中できて好都合なんだろう。
というわけで、我が家の常駐戦力が一気に4人も増えたことで俺も一安心である。
…まあ、一番喜んでるのは剣術ごっこの相手が常にいるヴィクトルなんだが。
「ふぅ~、まいったぜ坊主。お前さんの元気には敵わねぇよ」
「じゃあ、じゃあ、次はアニタ姉ちゃんね!」
「よ~し、手加減しないよ~」
対戦相手を入れ替えてはしゃぎまくるヴィクトルだが…、さっそく先ほどのダリオとの対戦で仕入れた鍔迫り合いからの体当たりを狙っているな。
それを見てダリオも驚いたと思ったら、今は口笛を吹いて感心した様子だ。
…ふむ、やはりヴィクトルの才能はクラスの恩恵によるものだけではないな。
技を盗む目がいいというのもあるが…、なんでもやってみようという好奇心が一番の才能なんだろう。
それをダリオも認めているんだろうが…、お前の嫁さんは本当に手加減しないからもうちょっと言ってやれないか…?
いくら防具を着けさせてるとは言っても、ヴィクトルがあちこち青あざだらけになってるじゃないか…。
「もう、ヴィクトルったら…。怪我したら嫌よって言ってるのに…」
「まあそう言うなって。あんだけ楽しそうなんだから、いいじゃねえか。それに、お前のポーションを信頼してっから、毎日あざだらけになっても平気なのさ」
ふと見るとタマラとベニートが庭に出てきて、ヴィクトルの剣術ごっこを眺めている。
うーん、なんだかすっかりベニートもウチの家族みたいな雰囲気になって来たな。
まあ、コイツはブラスやセルヒオと違ってずっとウチに居ついてるから、タマラたちも信頼する度合いが特に高くて…ん?
あ、あれ…。
なんかこの二人、やけに距離が近くないか…?
というか、よく見たら腕を組んでいるじゃないか。
どうもベニートは非番の日もウチから遊びに出ることも少ないなと思っていたが、そういうことだったのかよ。
…えーと、もう一部屋造った方がいいのかこれは?
いや、こいつらは家族だからそのまま二階に住ませればいいか。
思ったよりも部屋数を消費するペースが速いな…。
増築も視野に入れていくか。
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