第120話 運動会
扉の向こうの気配は…、これはドラゴンだな。
他の大型の獣とは異なる独特の気配と言うか、トカゲの類とは似て非なるものがある。
なにより、脳波を拾ってみると視界に色調があることが分かるので、そうするとドラゴンであることが判別できるわけだ。
この判別方法を俺以外が使うか分からないが…、まあヴィクトルには教えておくか。
数は4匹。
俺はマジックバッグからドラゴンスレイヤーを引き抜いて、突入のタイミングを測る。
例によって熱感知器官があるので死角に潜り続けるのは無理だろうから…おや?
どうもこのドラゴンは熱感知にあまり注意を向けていないぞ。
ふむ…、熱感知器官の性能そのものに不具合はなさそうだから、この注意の低さは習性からくるものだろう。
とすると、…炎を吐くわけだな。
おそらくは、自身の吐き出す炎によって空間が熱せられ、あっという間に熱感知器官が用を為さなくなることから身に着いた習性だろう。
ならば一呼吸だ。
文字通り一呼吸の暇を魔物に与えなければ、俺が炎を浴びることも無い。
俺はニンジャ迷人から奪った草鞋の感触を確かめる。
うん、滑ることもないし十分だな…。
…行くぞ。
体当たりで扉を破った俺は一気に駆け抜ける。
ドラゴンスレイヤーの右薙ぎで一体のドラゴンの肩口を斬り裂き、返す刀でもう一体の首筋、三体目は逆袈裟に振り上げて胸元を斬り裂きながら跳躍して、四体目の背中に突き立てる。
すべて、たしかな手応えがあった…。
一拍の後、4体のドラゴンは膨れ上がって爆裂した。
出現した宝箱を開けると数枚の金貨と貴金属のゴブレット、そして一振りの長剣が姿を現したのだが…。
どうもこれは俺には扱えないらしい。
漆黒の鞘に金縁の拵えも見事な逸品で、柄を持った手応えでもバランスのよさを感じさせて是非刀身を見たいのだが…抜けない。
うーん、これだけ状態が良さそうな剣が錆びついているとも思われないのだが…。
まあ、いいか。
俺に使えなくとも価値のあるものかも知れないし、鑑定に回してから手放すかどうかを考えよう。
よし、次だ次だ。
迷宮の廊下に戻ってみると今度は「重戦士」の迷人が見える。
しかし多いな…12体か。
いずれもこのタイプの迷人では過去最高の手練れで、あの地下4階層にいた「重戦士」よりも強いことが感じられる。
ふふ…、こりゃ大運動会だな。
いくぞ、種目は棒(で殴り)倒し競争だ。
俺は取り出した槌鉾を右手に構え、タイミングを見計らって迷人集団のただ中に飛び出す。
「グアッ!?」
「ペゥッ!?」
一体目の脳天を兜ごと叩き割ると、一気に死角に潜り込んで二体目の後頭部を殴りつけて昏倒させた。
これだけの数になると全部の死角には潜れないが、手近な個体に対しては常時死角を維持し続けて次々と殴り倒して行く。
遠くの個体は俺を視認して詰めようとしてくるのだが、その前には俺を見失った個体でガチャガチャと渋滞を起こしているな。
俺は仕留めた「重戦士」迷人の斧も奪って、両手で旋風を起こすようにして暴れ回っていく。
斧の刃の後ろについたカウンターバランスのピックも、これは鎧通しに使えていいな。
右手の槌鉾で兜を砕きながら、左手に持った斧のピックを甲冑の脇腹に突き刺して反対側の肩口から飛び出させた。
刺さってしまうと捨てるしかないが、斧ならいくらでも落ちているので構わない。
「ゴエッ!?」
「ヒゲッ!?」
「アガッ!?」
甲冑がひしゃげる金属音と迷人の断末魔が響き続けて、気が付くと残りは後一体だ。
しかもこの一体は肩を砕かれて斧は取り落とし、すでに盾を持つのみとなっている。
「…ウオオオォ!」
迷人は怯むことなく盾を押し立てて突進してきた。
…コイツらは本当に勇敢だな。
その闘志に畏敬の念を払って、両手の得物を捨てて背の三日月の太刀を引き抜く。
上段に太刀を持ち上げた俺は、一直線に突進してくる「重戦士」の迷人向かって…。
「しいぃっ!」
天空の三日月から霹靂が迸って、迷人は縦に二つに分かれて俺の左右を駆け抜けていった。
…兜を割ることを奥義とするならば、盾を掲げた戦士を甲冑ごと脳天から股座まで断ち割ることはなんと表現したらよいだろうか…?
いや、自惚れるまい。
これは天下に隠れなき名剣が為すことであって、俺の力量で出来たなどと思わないことだ。
さて、以前に土産にした斧よりも幾分上等な斧がたくさん手に入ったな。
全部という訳にはいかんので、一本を土産に包もうか。
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