第117話 騎乗
うーん。
やっと面倒な回転床の煩わしさから解放されたのはよかったのだが…。
今度はただ長い通路が続くばかりで魔物の気配も無いぞ。
部屋があればだいたいは中に魔物が待ち受けているんだがな…。
この地下8階には極端に部屋構造が少ないのだ。
ちなみにエレベータの座標とは反対方向の探索から進めているのだが、それもあっさり終わってしまいそうである。
探索が捗っていると言えばそうなんだが、要するにただ歩き回っているだけだな。
おっ、文句を言っていたら久しぶりの扉が見えるぞ。
中には…未知の魔物がいるじゃないか、よしよし。
ふむ…かなりのサイズがある魔物で…、重心が随分と偏っているので二本足だが人型ではないな。
床と接する爪の音からすると、常に前方に対して踏ん張っているような…こりゃ鶏のように逆方向に折れ曲がった脚を持っているのではなかろうか?
…あっ、蹴爪の音がするから間違いないぞ。
そうすると巨大な鶏の魔物だろうか?
ちょうど翼を広げて畳みなおす音も聞こえたので、その想像を補強しているようにも思える。
いや…それだとやはり重心がおかしい。
長大な尾を備えていないと帳尻が合わないのだ。
尾は地面に接しておらず確定できないが、それがあるものとして想像図を描くと…。
…T-REXのような肉食恐竜の姿が脳裏に浮かんできた。
いやまあ、ドラゴンがいるんだからT-REXがいたっていいんだが。
それでそのT-REXだが…、全部で6匹いるな。
どうも爬虫類型の魔物には熱感知が付き物のようなのだが、コイツらからは単純な光学視界しか感じられないし、死角のタイミングを取って飛び込むとするか。
俺は三日月の太刀を抜き払うと、扉の前に張り付いて死角周期が重複する瞬間を待ち続ける。
…
…いま。
肩口で扉を打ち破る音が届くとほぼ同時に、迅雷となった俺は魔物の首を二つまで跳ね上げていた。
「ギシャアアアアアア!」
想像通りの翼の生えたT-REX、いや前足の無いドラゴンと言うべきか。
残りの4匹が巨大な羽をバタつかせながら俺に殺到してくる。
…ちっ!
8枚の翼が巻き起こす風圧が俺の身体を浮かせて、足の踏ん張りが利きにくい。
俺の弱点である体重の軽さを見抜いているのかどうか、効果的な攻めをして来るじゃないか…!
群がり来る牙の林を躱しながら、俺はイマイチ腰の入らない斬り払いでもどかしい対応を強いられる。
仕方ない、石畳が良くないなら別の地面に移るか。
噛みついて来た牙を躱しざま俺はT-REXドラゴンの後頭部に伸びる角を掴んで、片手懸垂で跳び上がるとその首筋を両脚で挟み込んで無理やり騎乗の姿勢を取った。
「ギョッ!?」
「ギャギャッ!?」
仲間が急に俺の乗騎となってしまい戸惑うT-REXドラゴンどもに、俺は内心愉快になって来た。
このまま乗りこなしたら本当に俺の乗騎になってくれないだろうか?
俺を振り落とそうと首を振るT-REXドラゴンのロデオを熟しながら、俺はそんなことを考える余裕もあった。
…いや、こんな大きな魔物を家に連れて帰ったら、エリカになにを言われるか分からんけどさ。
闘っている間くらいは自由に騎乗ごっこをさせて欲しい。
戸惑っていた他のT-REXドラゴンどもも意を決して俺に牙を向けてくるが、俺は下半身の安定を得て三日月の太刀で迎撃していく。
そして俺に乗られている乗騎も自身に向けられる牙を防ごうとするので、なかなか人馬の呼吸が合ってきたぞ。
「ギャッ!?」
一匹の首を刎ね飛ばしたところで、ついに周囲のT-REXドラゴンどもがハッキリと俺の乗騎を攻撃し始めたぞ。
尾や翼まで仲間の牙に斬り裂かれて次々と深手を負っていく。
「ギャアアア…ギョッ!?」
乗騎が弱ったところに俺ごと牙にかけようとする一匹が首を伸ばしてきたが、俺はクルリと跳び上がってその首に乗り換える。
よし、手傷の少ない乗騎を手に入れたぞ。
太刀を振り下ろしてそれまで乗っていた乗騎の首を断ち切ると、後は一騎と一匹の最終決戦だ。
さあ進め、どうした行かんか、…行くわけないか。
俺は戦闘意欲を喪失しつつある乗騎の首にサクッと太刀を突き立てると、立ち上がって頭部の上を走り鼻先から跳躍した。
「ギッ…!」
そのまま真正面でまごついていた最後の一匹の顔面を断ち割り、前方にもう一回転して久しぶりに石畳に戻って来た。
いやぁ、思い通りに行かない部分も多かったが中々面白かったぞ。
石畳に散らばる魔石を拾い集めながら、俺は先ほどまでの充実した戦闘を振り返っていた。
…まあ、絶対こんなことしない方が早く終わっただろうけどさ。
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