第115話 ラストサムライ
おっ、これまた魔法の品だな。
一つ目巨大トカゲを斃した部屋の中に出現した宝箱、その中からは金貨と宝石、そして一振りの片手剣が出て来た。
片手剣と言ってもさすがは西洋剣で、刃渡りは80cm以上あるだろうな。
なんらかの魔法が込められているが…、振ってみても何の効果なのか分からない。
魔力を込めようとしても反発するのが魔法剣の特徴を示しているが…、これはその中でも反発がかなり強いような気がするな。
魔力そのものを強く忌避するというか、そのへんにヒントがありそうだが…。
ふーむ、これ以上は鑑定しないと無理かな。
ともかく俺は戦利品の剣をマジックバックに納めると、次なる魔物を求めて迷宮の通路に戻る。
…またあの謎の回転床の罠と格闘しなくてはならないのか。
一時間ほどの悪戦苦闘で、俺はやっと次の魔物の気配を捉えた。
今度も先ほどと同様に魔物は部屋の中である。
うーん、魔物と遭遇するのにこれほど手間がかかるのではこの階層はちと面白くないな。
さっさと次の階層への階段を見つけて通過してしまおうか…。
…おっ?
甲冑を身に纏う重量感で椅子に腰を下ろす迷人と、その周囲には「破戒僧」のタイプの迷人が6人…。
この構成は陣屋大名とよく似ているぞ…。
またいずこかの大将が会いに来てくれたんだろうか?
パシリと軍扇を掌に打つ音も聞こえて、こりゃ大将首に間違いない。
地下8階層に文句を言って悪かったみたいだな…、回転床の罠に付き合った甲斐があったというものだ。
俺は歓喜の感情を抑えつつも、両手に振り出した棒手裏剣に魔力を充填していく。
ちょうど取り巻きの数は6人だから、投擲で仕留められる最大数と合致するな。
…大将首は正々堂々の果し合いで挙げることになりそうか。
俺は扉を蹴破り両腕を振り抜く。
「「「「「「!?」」」」」」
6つの頭部が四散して、太刀を手に床几から立ち上がる武者とここからは一対一で…、おいおいおい。
立ち上がった武者は穢れ無き白絲で威された室町風の大鎧を着込み、頭には高貴な身分を示す立烏帽子。
床几の後方、迷宮の石壁には見間違いようも無いほどにシンプルで強烈なデザインの旗指物が二種掛けられていて…。
すなわち一つは無垢なる源氏の白旗、いま一つは諸国の武門を統べる丸に二両引きの足利紋。
スラリと引き抜かれた太刀は、やや細身の刀身に美しい三日月の打除けが浮かんで…これぞ俺でも分かる国宝天下五剣。
…大将は大将でも征夷大将軍が出てきちゃったじゃないか。
いいのか、斬ってしまって…?
さすがに躊躇う俺は、まず呼ばわることにした。
「…大樹とお見受けいたすが、如何に?」
「…グォウ」
ダメか。
そりゃそうか、まさかの有名人登場に動転したが、対峙しているのは赫眼の迷人…魔物である。
俺がここで斬ったとて歴史に影響はあるまいし、なんやかんやあって東大寺が焼けることもきっと変わりないだろう。
俺は両手に得物を構えて腰を落とす。
対する公方様は八双の構え。
いまだ距離を取る両者の間には剣気が…起こらない。
…これは凄い。
轟轟と猛る剣気ならばどれほど強くても問題ではないが…、これはまるで鏡の様に静かな水面の剣気。
起こりを拾おうにも、そもそも人を斬るような場面にある者の気勢をしていないぞ…。
空を得た達人とはこれか。
膳の箸を取るほどの幽かな起こりもなく太刀を振られては…。
…斬られるな。
よし、斬らせよう。
斬らせないのが不可能ならば、斬らせてから斬るのみだ。
俺は自身を満たす魔力とそっくり同じ物を幾つも作り出し、身体から滲ませるようにして重ねていく。
ここで初めてピクリと反応した公方様は、…やがてニコリと笑った。
刹那。
影が奔って空を扼し、二筋の剣閃が煌めいた。
パチリ、と鞘に美刀を納めた公方様はそれを俺に下賜なさるようで、居住まいを正して膝をついた俺は、失礼ではあるが致し方なく動く方の右腕一本で恭しく拝領した。
喉を貫かれて塵となりゆく公方様は最後になんと仰せられたか、『見事』と口が動かれた様にも思えたが…。
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