第114話 地下8階層
※お食事中の方はご注意下さい
うーん、面倒くさい。
期待に胸を躍らせながらやって来た地下8階層だが、俺を待ち受けていたのは奇妙な罠だった。
奇妙というか…、何の意味があるんだこれは…?
一見なんの変哲もない迷宮の石畳だが、しかし迂闊にもそこに足を載せてしまった物は…グルリと床が回転して進行方向が90°変化してしまう…。
…いや、だから何の意味があるんだ。
もし10回転とか100回転とかするならば方向感覚を失うという事もあるかも知れないが…。
目の前の景色が90°回ってるのに、気付かないヤツなんているわけないだろ。
しかもこの謎の罠があちこちに多数仕掛けられていて、正しく足の踏み場も無い。
…いいから魔物を出せ魔物を。
扉の向こうから未知の魔物の気配を感じる。
いいぞ、やっと魔物が出たか。
ふむ…、四本足の獣タイプで…いや、腹を床に擦りながら這っているな。
すなわち、トカゲのような姿が想像される。
動物タイプなので脳波を拾っているのだが、どうもこれまた特殊な視覚処理を行っていそうだな。
いや、視覚そのものは普通なのだが…しかし明らかに何らかのサブシステムが搭載されている。
また熱感知だろうか?
ふーむ、ピット器官は蛇にしか無かったと思うんだが…、別に異世界のトカゲが熱を感知していても不思議はないか、現にドラゴンもしてたしな。
いやしかし…どうにも違和感がある。
この感じは光学感知や熱感知のような知覚システムというよりは…なんというか、何らかの攻撃管制システムの様に感じられるぞ?
いったいどんな攻撃方法なんだ…。
視覚と連動している攻撃管制ということは、ミサイルのような3D制御を必要とする誘導タイプの攻撃方法だろうか。
いや違う…、これは視覚に連動しているというよりも、視覚の一部だ。
…つまり、視線そのものが攻撃…?
ふむ…、どうやるのかは分からないが、コチラを見るだけで攻撃となす能力を持っていると想定しよう。
すると、姿を見られるだけでもダメなわけか…。
開幕の魔力投擲で一気にしとめるか?
いや、どれだけ高速の投擲をしたところで視線には、文字通り光の速さには敵わない。
うーん、扉の向こうにいるというのが厄介だな…。
どうやって気付かれずに接近したものか。
この世界に来て以来ずっと肉弾戦よりの方向に傾倒してきたが、ここに来て本来の忍者の技能が試されているぞ…。
よし、ならば正攻法で忍び込むか。
俺は扉の前で数十分の時間粘り続け、部屋の内部の魔物がコチラを見ていないタイミングを掴む。
あとは音を立てずに扉を開くわけだが…、不用意なことに油の類は持ち込んでいない。
…止むを得ん、ここは古式に則っていく。
俺は腰帯を解くとズボンをずり下げ、下穿きを押し下げてまあそのなにを取り出した。
そして扉の蝶番に慎重に狙いをつけて、精密に制御された尿をかけてゆっくりと湿らせていく。
これぞ古式ゆかしい忍び込みの作法…いや、本当なんだって。
爺ちゃんも若い頃にこれで婆ちゃんの家に忍び込んだって…いや、その話はいいんだ。
俺は下穿きとズボンを戻して腰帯を素早く巻き直すと、扉に手をかけてほんのわずかに力をかける。
湿った蝶番は音もなく動作し、部屋の中の生娘ならぬ魔物の姿が見えて来た。
…やはりトカゲのような姿、今は閉じられているが顔面の中央に眼球が一つか。
あの瞳が開かれるや、なんらかの神通力が働くに違いない。
俺は息を潜めて暗闇に紛れ…、あたかも寝入る生娘を起こさないように…、寝所を守る父親に夜這いが露見しないように…、今日はもう変な考えが浮かんでダメだな。
完全に爺ちゃんのしょうもない自慢話のせいなんだが…、というか寝所までは首尾よくたどり着いたとして、その後のことはどうやって静かに済ませたんだよ…?
まあ…、たぶん婆ちゃんの方も爺ちゃんが忍んで来るのを待ってたんだろうから…いや、マジでこの話はもういいんだって。
などとイマイチ集中力が高まらない潜行であったが、それでも俺は魔物のすぐ背後まで接近することに成功した。
俺の眼前には、巨大なトカゲの魔物の無防備な首筋がある。
…さて、婆ちゃんと違ってコイツは俺を待っていないだろうから、ここから先は無理矢理になるのを許せよ。
太刀が鞘走る音だけがして、トカゲの巨大な首が断ち落とされた。
よし…。
夜ば…奇襲成功だ。
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