第112話 鮫歯の剣
さて、地下7階層に戻って来たが…気配を探るに未知の魔物の気配というものは見当たらない。
牡山羊の魔物や土巨人の魔物の気配はいくつか感じるが、まあ敢えて探し求めて闘いたいほどのことも無いだろう。
…今回は下層に向かう階段を探すことを優先しようかな。
俺は未探索のエリアに足を向けて迷宮を歩みながら、遭遇する魔物だけを相手にしていく。
まずは大鬼が3体通路を塞いでいるな、もうウォーミングアップの必要は無いので一息で行こう。
俺は背中の太刀を抜くと、ほとんど一瞬で魔力を浸透させた。
迷宮の暗闇を移動しながら、大鬼どもの立ち位置を確認して斬り抜ける筋を検討するが…。
なにも飛び回る必要はないか…。
「ゴァッ!?」
「グオッ!?」
「ガウッ!?」
大鬼の足が林立するスラロームのような空間を、俺は疾風になって駆け抜ける。
もちろん、駆け抜けるたびに太刀を横薙ぎに振るって大鬼どもの両足首を断ち切りながらだ。
身体の支えを失った大鬼どもは迷宮の石畳に倒れ伏すので、後は年末進行の首切り役人のように慌しく大鬼どもの首を落として回れば終わりである。
…うむ、以前は断ち切るのが難しかった大鬼の足首も、地上での十分なシミュレーションのおかげで、今は苦も無く斬れるようになった。
まあ、秘訣は大鬼どもの筋肉の動きを視ることだな。
二足で直立しているからには必ず左右どちらかに体重を多く乗せて踏み替えている。
そこで体重が乗っていて筋肉が強張っている方ではなく、弛緩している方の足を狙う訳だな。
さて次は…、これはいわゆる不死系統の魔物だな。
通路の曲がり角の先にいるのは、血の気を感じさせない半裸の男がグネグネと奇妙に身をよじっている姿だ。
このタイプは地下1階層のスケルトンコボルトやら、地下2階層の歩く腐乱死体やら、まあ概して気持ちのいい存在ではない。
しかも毒やらなにやらの危険な気配を感じさせるものが多いので、気を付けて対処していこう。
俺は背後からそろりそろりと接近するが…、どうもコイツらは死角があるんだか無いんだかハッキリとしない手応えで気持ち悪い。
今も俺は発見されている気配ではないのだが、…ほらな。
「キシャアアア!」
俺が間合いに入ろうとした直前で突然振り返って襲い掛かって来る。
…まあ、大した速さではないので打刀と脇差の剣閃で念入りに20ほどのブロックに細切れにしてやった。
よし、ちゃんと塵になっていくな。
コイツらは首を刎ねても致命傷でないことが多く、こうして過剰なくらいに切り刻んでやる必要があるのだ。
かように面倒な相手でありながら、それでいて大して強いわけでもないのが本当になんとも…。
さて、宝箱の罠を解除して…と、なんだこれは…?
宝箱の中から出現したのは、いつもの硬貨と宝石類に加えて一振りの剣…だと思うんだが。
剣と言っていいのかこれは…?
やたらと先が膨らんだ奇妙な形の鞘から出てきたのは、一見すると片手剣の類で、刀身も拵えも非常に上等な物なのだが…。
刀身の尖端1/3くらいにはサメの歯のような小さなブレードが無数に生えていて、剣というよりはまるで細身のチェーンソーのような姿である。
ふむ…、南米先住民の戦士が棍棒に黒曜石の歯を埋め込んで剣にするのは本で見たことがあるが、これもそういうコンセプトの武器なんだろうか…?
いやいや…、明らかにそれ以外の部分の刀身も見事な出来だ。
これならわざわざサメの歯を生やす意味が見いだせないぞ。
ともかくちょっと振ってみるか…おっ!?
俺が奇妙な形の剣を立てると柄を握った手に違和感を覚えて、よく見るとサメの歯が高速かつ微細な振動を起こしていることが分かった。
…なるほど、この武器のコンセプトは分かったが…本当にこんな動きに意味があるんだろうか?
試し切りをしてみよう。
手近な魔物を探して…アイツでいいか。
視界には棍棒を持った肥満体の魔物が飛び込んで来た。
アイツらは治癒能力を備えていることが特徴なのだが、ともかく動きが鈍いので実質的に据え物斬りみたいなもので丁度いいだろう。
「ギョエエエエエ!!」
うーん、どうやらそれなりに意味があるらしい。
俺は肥満体の魔物の腹部に例の奇妙な剣の先端部を押し当てているのだが、それだけで肥満体の魔物はブシャブシャと血肉を飛び散らせて藻掻いている。
これならば斬撃でなくとも触れるだけで一定のダメージを狙えるわけか、…斬った方が早そうに見えるけどなぁ…。
しかも、剣そのもののバランスはすこぶる良いのがまたなんとも…。
俺はいまいちコンセプトに同意できないが、これはこれで逸品なのは間違いなさそうである。
…よし、これはボドワンへの土産にするか。
触れるだけでダメージが発生する剣なんだから、払い技を多く使うアイツの技法にはマッチするんじゃないか。
知らんけど。
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