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【web版】現代忍者は万能ゆえに異世界迷宮を一人でどこまでも深く潜る  作者: 左兵衛佐


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第105話 復讐


 虎男の魔物や「破戒僧」の迷人、巨大トカゲの魔物や「盗賊」の迷人など、次々と遭遇する魔物を切り裂きながら俺は物思いに耽っていた。


 …土巨人への投擲実験はあまり良い結果を生まなかった。


 全力で魔力を込めた投擲を実戦レベルにまで高めるのは、一朝一夕では達成できないことが明らかである。


 二度の実験ではどちらも投擲した腕が破壊されてしまい、しかも棒手裏剣が一投ごとに砕けてしまうので実験その物が難しい。


 魔物を全滅させて次の魔物の気配を探り歩くあいだ、俺は手に握った棒手裏剣をしげしげと眺める。


 うーん、これまでは疑問を持たずに使用してきたが…、こうして手に持って魔力を注いでみると抵抗が強い。


 実験を行っていてここにも限界を感じた。


 魔力を限界まで込めた棒手裏剣はビリビリと振動してしまって、たとえ投擲の反動をうまく制御できたとしても精密に投じることは不可能に思われる。


 それに比べて、剣豪迷人から譲り受けた打刀や陣屋大名から贈られた脇差は、もっとすんなりと魔力が通ると言うか…、手に感じる鋼の組成がより緻密で繊維のように魔力を吸収してくれる。


 うーん、どうもこの違いは鋼の質や鍛え方に起因するように感じられる。


 まあこの棒手裏剣は俺が鍛冶屋に形だけを伝えて打ってもらった物なので、重要文化財級の逸品である刀剣たちと質が違うのは当たり前だろうな。


 そうなると投擲武器自体をもっと質の良いものに更新するべきか。

 …でもなぁ、この世界に棒手裏剣を打つ名人なんているんだろうか…?


 刀剣と同様に迷宮で入手できる投擲武器はどうだろうか?


 迷宮で出会うニンジャ迷人たちが稀に苦無を落とすのだが…、あれは本来スコップのようにして穴を掘ったり、紐を通して投げ縄にしたりと汎用性に重きを置いた道具である。


 投擲による単純殺傷を目的とした場合には、さほど優れない形状なのだ。


 いや、本来の忍者の在り方からするとそう言った汎用性こそ重要なのだが、俺はまたちょっと違うスタイルだからな…。

 うーむ、次に地上に戻ったら店を巡ってヒントを探してみるか。


 地上…?


 ここまで意識しないようにして来たが…、ずいぶんと前から後頭部の熱感が高まっている。


 顎をさすって髭の具合を確認してみると、ジョリジョリとした感触が相応の時間の経過を俺に伝えてくる。


 …うん、まあ分かってるよ。


 考えないようにしていたけど、明らかにそろそろ帰らなくてはならない時だ。

 さすがにこれ以上帰りが遅くなっては、…でもなぁ。


 俺は自分の身体を省みる。


 綿甲は元の黒さを以てしても隠し切れないほどにあちこちが焼け焦げ、開き直って酷使したことにより裂けてしまっている部分も多い。


 鎖帷子の中に着込んでいる鎧下も、投擲実験で出血したことにより右腕を中心に血の跡が生々しい。


 …怒られるよなぁ。

 いっそ今回も深夜の帰宅を狙って、地上に登る階段の下でタイミングを図ってみるか…?


 …いや、前回の一度だけでも翌日には大いに疑われてしまったし、二回続けて綿甲を処分して帰ったりすればより重い叱責を受けてしまうだろう。


 しかも今回は鎧下も血塗れなので、それも処分して帰るとなると本当に裸に近い格好になってしまうしな…。


 うーん…、こうなっては仕方ない。

 運否天賦の漂人探しだけは一応してみるが、あとは正直に謝って叱責を受けるしかないか。


 そうと決まればエレベーターを目指して行こう…。

 おっと。


 この気配はアイツだな。

 視界の先、通路の奥の扉の向こうから…牡山羊の悪魔の気配がする。


 …ここで会ったが百年目だな。

 キサマのせいで俺はこれから憂鬱な心持ちで帰還しなくてはならないのだ…。


 俺は背中の太刀を引き抜き、刃を肩に担いで扉の前に身を寄せる。

 気配は前回と同様に一体のみ、今度は増える前に叩くぞ。


 復讐の力が全身に漲るようだ。

 この恨み、晴らさでおくべき乎…!


「ゴアッ!?」


 迷宮の扉を蹴破った次の瞬間には、俺は部屋の中央まで踏み込んで雷の如く太刀を振り下ろしていた。


 脳天から胸元までを真っ向に断ち割られた牡山羊の悪魔は、ピクリと四本の腕をわずかに動かしたのが限界で塵と化して消えていく。


 電光石火の太刀は、俺の復讐を成し遂げてくれた…しかし。


 …むなしい。


 こうして復讐の太刀を振るったとしても、地上に還った俺がエリカから激しい叱責を受けるという事態は何一つ変わらないのである。


 復讐は何も生まない、とは至言だな…。


 深いため息を吐きながら、俺はエレベーターのある座標へと重い足取りを進めるのであった。


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