第102話 光球
地上に帰れば叱責が確定している俺は、ある意味では気が楽になった。
もうこの上は綿甲が多少焦げても破れても気にしないし、なんならちょっとくらい帰りが遅くなったって構うまい。
怒られる分のマイナスは今楽しんであらかじめ取り返しておくのだ。
…そう思わないとやっていられないのだ。
ともかく怪我にだけは気を付けて行こう。
さて、先ほどから視界の端にチラチラと捉えている魔物がいる。
俺から一定の距離を保ってフワフワと宙に浮く、人魂というべきか…しかし炎ではなく光の球と言うべき存在である。
大して強い気配も感じないし、近寄って来ないので無視していたのだが、このまま別の魔物と遭遇した時に嵩にかかって襲って来られるのも面白くないな。
ふむ…、どうやって接近するか。
俺が暗がりに身を隠して忍び寄っても、どうやって知覚しているのかフワフワと離れていってしまう。
視覚のメカニズムを探ることも…まあ、無理だな。
そもそも自分自身が発光しているのに、外部の光を知覚することは可能なんだろうか?
それとも音なり魔力なりの波動を知覚しているのだろうか?
だとすると、知覚を欺瞞して接近することは不可能に近いということになる。
いや、これまで挑戦してこなかったが視覚以外の脳処理にも…いやいや、あんなのどこに脳があるんだよ?
…よし、面倒くさい。
迅雷の勢いで迷宮の通路を駆けて、一気に距離を詰める。
俺の接近から逃れようとすぐに反応した光球の魔物だったが、単純な速度で捻じ伏せた俺は打刀を抜き払ってすぱりと両断した。
これまでの魔物と同様に塵と化していくのだが…、光が塵になると言うのもよく分からん現象である。
まあ、やはり大した魔物では…む!?
身体の奥底から活力が湧き上がる感覚…。
これは位階上昇に違いないが…、これまでのペースに比べるとやけに早いような?
そういえば、つい先ほどの光球の魔物を斃したときにやけに大きな充実感を得たような…。
…まあいいか、なんにせよ通算11回目の位階上昇、185%の身体能力上昇である。
元の3倍近い身体能力とはもはや意味不明であるが、意味は分からなくとも対応はしていかなくてはならない。
一回の探索で二回も位階が上昇するとは思っていなかったので、これは少し身体の慣らしをしてから進むことにしよう。
俺は適当な空き部屋を探すといつも通り扉を太刀で封鎖して、鍛錬の動きをなぞりながら1時間ほどの慣らし運動を行った後に、水と食料を摂取して休息を取った。
視界の先には「魔法使い」の迷人が6人。
しかもこの気配は…、なんとこの「魔法使い」どもは地下4階層の迷人部屋にいた連中と同じ種類の迷人である。
なるほど、地下7階層で遭遇するような相手があの迷人部屋には居たんだな。
道理であの時点では苦戦を余儀なくされたわけだ。
さて、俺はもう多少の被弾は気にしない状態になったので、こいつらにもさっそく仕掛けていく。
投擲でもいいんだが…、コイツらは死角が盗みやすいから暗殺を練習してみよう。
迷宮の暗がりに身を溶かし込んだ俺は、こちらに目を向けた迷人には死角を利用して移動し、迷人集団のすぐ後ろにピタリと張り付くことに成功した。
俺は脇差を抜き払うと、「魔法使い」どもを一人ずつ暗闇に引き込んでは喉を切り裂いていく。
4人まで仕留めたところでさすがに異変に気付いた「魔法使い」が狼狽え出すが、もう面倒なので正面から一息で斬り倒して、これにて暗殺の練習は終了である。
うーん、最後まで気付かれずに仕留め切りたかったんだが、まだまだ技術が未熟である。
これならやはり、初めから投擲を仕掛けて数を減らして、あとは一気に切り裂いた方がはるかに早いな。
…うすうす思ってはいたんだが、俺は魔物との戦闘に明け暮れるばかりに本来の忍者としての技能バランスを崩してはいないだろうか…?
ありていに言えば、白兵戦・肉弾戦ばかりが異常に上達していて…。
いや、深くは考えるまい。
これが現状に即した俺の忍術なのである。
敵の軍勢を偵察したり、軍事施設に潜入して破壊工作を行ったり、そういう働きが求められる世界にいたからこそ、ご先祖様たちはその面の技を磨いたのである。
ご先祖様たちだってこの世界にやって来ていたら、俺と同様に対魔物戦闘の技を磨いていたに違いないのだ。
…時代には時代の、世界には世界の忍術があるのだ。
自分でも誰に対して弁明しているのかよく分からないまま、俺は次の魔物を求めて迷宮の通路を歩んでいた。
★★★★★やブックマークはもちろんのこと謎スタンプもいただけますとモチベーションになります!




