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【web版】現代忍者は万能ゆえに異世界迷宮を一人でどこまでも深く潜る  作者: 左兵衛佐


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第100話 牡山羊の悪魔


 …いるな。


 扉の向こう迷宮の一室に、これまでに無い強力な魔物の気配を感じる。


 人間サイズを大きく超えるので迷人ではないが…、しかし魔法を使う迷人とも似通った気配を感じる。


 つまりは、魔法を使う魔物ということか。

 しかし魔法だけではあるまい。


 ひしひしと肌で感じられるエネルギーの量そのものが、これまでの魔物とは隔絶しているのだ。


 …これは、勝てる相手かどうかを慎重に判断しなければならんな。


 足音から感じる体重はやはり重く、300kg以上と推定される。


 左右の脚を踏みかえる音は二足歩行を示しているが、…しかし石畳に蹄が擦れるような音も聞こえるので人型なのか獣型なのか判断がつかない。


 ときおり、ピシリピシリと聞こえる音は…尾か?

 まるで牛がハエを払っているような音色とリズムだ。


 …ふむ、総合すると。


 二本足の巨大な獣のような魔物で、姿は牛か、あるいは馬か、そして魔法を使い…む!?


 今たしかに、腕が発する擦過音が3つ以上同時に聞こえたぞ?

 腕が3本以上…バランスを考えると4本あると考えるべきか。


 それらの腕が体格に見合う膂力を備えているとすれば、魔法よりも肉弾戦を警戒するべきかも知れん。


 ふむ、ふむ…。


 よし、行こう。

 相手は1体のみなので、囲まれることはないから最悪でも退路は確保できる。


 俺は両手に棒手裏剣を振り出すと一息に魔力の充填を行う。

 対象が一体なので棒手裏剣は左右1本ずつだ。


 俺の投擲術は左右それぞれ手の指で棒手裏剣を精密に抑え、腕を振りながら時差をつけてリリースすることで同時投擲を実現している。


 つまり、投擲の対象が一体ではリリースを調整する暇が無いので、一度に打ち込める本数は左右1本ずつになってしまうのだ。


 まあいい、投擲で決着しなければいよいよ白兵戦だ…。

 俺は呼吸を整えて集中力を高める。


 そして一気に、迷宮の扉を蹴破って両腕を振り抜いた。


「グゥアアア!!」


 放たれた2本の棒手裏剣は正確に飛んだ…が。


 魔力の障壁に阻まれ、1本は目標を外れて牡山羊の悪魔の胸元に突き刺さり、もう1本は大きな角に弾かれた。


 そう、牡山羊の悪魔。


 悪魔崇拝の冒涜的なシンボルをそのまま呼び起こしたような、4本の怪腕を備え赤銅色の毛に包まれた直立する巨大な牡山羊の悪魔が、そこにはいた。


 俺は両手にそれぞれ打刀と脇差を引き抜く。

 あの4本腕と渡り合うならば、攻撃にも防御にも手数が要るだろう。


 迅雷の勢いで駆け寄りながらも、悪魔の死角を探る。


 …ダメだ。魔力も視ている。

 死角は奪えん!

 

「ギュオオオオ!」


「しぃいいいい!」


 がきん、という金属音がして俺の渾身の打ち込みは悪魔の4本腕のひとつで受け止められた。


 残る3本の腕の反撃が襲い来るのを、俺は脇差を使い渾身の力でいなして、いなし切れない腕はダッキングで回避する。


 迫りくる腕の軌道を僅かに変えるのが精一杯だった。

 やはり尋常な膂力ではないぞ…!


 そのまま足を止めて数合を打ち合わせるが、まるでその赤銅色のままに金属で出来ているかのような悪魔の肉体は、容易に断ち切れない。


 反対に4本の腕がこれまた長大な爪を振りかざして、別々の生き物のように襲来して来るので、俺は一時も気を抜かずに攻防の組み立てを…ちぃっ!


 突如、5本目の腕であるかのように主張する巨大な尾が振るわれて、身を固めた俺の肩口を強烈に打ち据える。


 ビリビリと左腕が痺れて脇差の防御が利かなくなったところに、悪魔の拳が次々と襲ってくるのを俺は止むを得ず飛び退って躱した。


 鎖帷子が無ければ肩を砕かれていたな…。

 そして、距離を離したら魔法だろう…?


 果たして、悪魔の身体から急激に膨れ上がった魔法エネルギーが猛炎を象り、迷宮の一室にごうごうと吹き荒れた。


 こちらも魔力を全身に展開して防御するが…、皮膚がジリジリと焦げ付いてこれまでに受けた火炎の中で間違いなく最も高威力だ…!


 …しかし、すぐに炎を放ちたがるのはキサマらの悪癖だな。


「…グゥア!?」


 魔力の火炎が晴れると、もうそこに俺の姿は無い。


 …先ほどはコイツの独特な光学視界と、魔力視というべき魔力を捉える視界に対して潜伏を諦めたが、空間の魔力をこれほど掻き乱してしまえばもう視えまい。


 俺を見失って狼狽える悪魔の背後で打刀を片手大上段に構えている俺は、全身の力を剣刃一筋に集中して落雷の斬撃を解き放つ。


「ゴアアアッ!?」


 痛烈な斬撃を背後から受けた悪魔は堪らず石畳を転がって避難する。


 …渾身の一撃で山羊の後頭部から背中の半ばまでを断ち割ったのだが、それでも致命傷でないとは呆れた生命力だ。


 しかし、これで大勢は決したぞ…!


「ちぇりああああ!!」


「ゴォオオオオオ!!」


 防戦一方の悪魔は俺が剣を振るうたびに4本の腕を切り裂かれ、その防御はドンドンと薄くなっていく。

 ヤツはもう後が無いはずだ。


 しかし、その赫い双眸は爛々と鋭く輝いて、…なにか隠し球があるのか?


 なんだ…、 なにを隠し持っている。

 俺の剣に滅びゆく悪魔が、どうしてそんな眼をしている…!


 俺の放った剣刃が悪魔の腕の一つを断ち切った。


 その時、俺たちが闘う部屋の一角に暗い魔力が立ち昇って、迷宮の暗闇から生まれ出ずるように新たな牡山羊の悪魔が赤銅色の姿を現した。







つづく





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